失われた建築

2025

某貸家住宅

2025年
解体

2025.11.26

札幌市中央区南1条西23丁目
 古い貸家の解体されている様子に、しばし見入りました。その理由は、かつての一時期、この建物の右半分側にアンティーク物のミッドセンチュリー家具を扱っていたショップ「plein de」が入っていたからです。店のオーナー安達さんは、自分で2階の床を部分的に撤去して吹き抜けに改造していました。その様子が1950年代のモダン住宅のように美しく、私はその巧みさに心奪われていました。

 しばらくして安達さんはお店を手放して自宅のアトリエで静かにされていたのですが、私は引き続きそちらへもお邪魔しました。ある日のこと、昭和初期の腕利きの大工棟梁である小島与一さんの話になり、富樫邸大原邸、斉藤邸のことを懐かしんでいたところ、安達さんは驚くべきことを告白されました。

 「ウチの店についていた玄関ドアは、元々は斉藤邸についていたものだったんだよ」 

 驚きのあまり言葉を無くした私に、安達さんはお話を続けてくれました。
 
 「斉藤邸を解体するときに、いろいろと譲り受けたのさ。ステインドグラスや扉のほかに玄関ドアは自分の店に使えそうだなってね。今は美容室になっていると思うけど、まだついているはずだよ」

 私はその足で、すぐに確認しに行きました。

元斉藤邸の玄関扉 (2013年頃)

在りし日の斉藤邸 (2000年頃)

 そのまま今度は帰宅して、斎藤邸の写真の中にその親子ドアがあるのを確認し、納得したのでした。

 今回の解体工事で、あの玄関ドアは2度目の危機にさらされるということになったわけですが、私が気がついた時にはすでに玄関付近はなくなっていました。今回ばかりは残念ながら手遅れだったろうと、解体工事を見ながら思い出にふけっていたのでした。




 翌日談
 私は貸家の解体と玄関ドアのことを報告するために、数年前に復活した安達さんのショップを訪ねました。入口の扉を開けて店内に踏み込むなり、正面の壁に立てかけてあった物体に体が固まりました。皆様お察しの通り、あの玄関ドアはいち早く安達さんが貸家持ち主様の了解を得た上で救出し、ショップ内で保管されていたのです。
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