18禁建築

18kin/2020

接触の恐怖

2020.04.26

 隣のアパートにもたれかかっているのではないかと気になっていた古い木造家屋。隙間を確かめてみれば、あと1cmというところで接触はしていませんでした。最近の札幌では珍しくなりましたが、子供の頃、こんな風に傾いた家があちらこちらにあったことを思い出しました。

 1977年、私の父は宮の沢というところに家を建てました。「沢」というくらいですから、とても水はけの悪い土地で、あたりは年がら年中ぬかるんでいました。付近はまだ舗装されていなく、車がやっとすれ違えるジャリ道の脇には手掘りの側溝が延々とあって、澱んだ水がたまっていました。

 杭を打って家を建てるということが、当時ではまだあたりまえではなかったのかもしれません。傾いた家がいくつもあって、特にここいらに建てれば子供にだってマズイとわかりそうな場所にも数軒の家が建っていました。少しでも雨が降れば付近一帯は水浸しになり、地面に真っ直ぐ並べられた歩み板を進んで学校へ向かわねばなりませんでした。

 帰り道、側溝を飛び越えるのに失敗して汚いドブに落ちました。昨日は夕飯中に味噌汁をこぼして母に叩かれたばっかりだったので、これは絶対にバレるわけにはいきませんでした。近所の公園で裸足になって靴と靴下を洗い、早く乾いてくれと神様に祈りました。



 こぼれた味噌汁と言えば、今朝、息子の粗相で子供の頃の記憶に引き戻されました。テーブルに流れ床に滴る牛乳を見て、自分がこぼした味噌汁と重なりました。
 「ごめんなさいだろ!」
 脳裏にあった母の言葉が、今度は自分の口からあふれだしました。

 声を荒げた自分を思い返し、何をイライラしているのかとハンドルを強く握って家に帰ります。傾いた家を見にきたばっかりに過去の記憶がよみがえります。おとなしく「STAY HOME」しておけば良かったのです。 



後日談・・・撮影から数か月後、この木造家屋は解体されてしまいました。
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