18禁建築

18kin/2022

この屋根型こそ札幌の地域性 マジンガーZ式

2022.10.03

 私の実家は1階が切妻屋根で2階が招き屋根になっています。切妻屋根に積もった雪は寒さが緩むと一気に落雪し、隣の家の外壁に勢いよくぶつかります。そうならないよう雪下ろしを頻繁に行わなくてはならないのですが、こんな風に気を使って神経をすり減らす家も多いことと思います。
 さて、このアパートは招き屋根で建物裏へ落雪させる形を採っています。さらに屋根両端をギュッと立ち上げて、雪が脇に漏れ落ちないように工夫しています。無落雪屋根が増える1980年代以前、このような力技な屋根デザインがあちこちに生まれたのは、住宅が建て込んできたことによって屋根から雪を落とす場所がだんだん無くなってきたという証明と言えましょう。そしてこのような形にはなってしまいましたが、隣地との隙間に落雪しなくて済むようになった安堵が感じられるようです。


 ところで5年前のこと、ホッケン研の皆で北海道工業大学建築工学科の教授をされていた大垣直明先生のお宅へお邪魔したことがありました。赴任された当時の状況をお伺いするためだったのですが、1972年に京都から札幌へやって来られた大垣先生は、まず住宅公社が建てたブロック三角屋根住宅の団地に驚き、折から流行し始めた木造変形屋根住宅に呆然とされたとのことでした。大垣先生は悪戯っ子のような顔で「変形屋根住宅とは僕が命名したんだよ。」と仰り、さらに「屋根の両端がこんな風に立ち上がった家を見たことがあるでしょう。あれをマジンガーZ式と名付けたんだよ。」と言いながら両手を頭の脇で立て、我々を爆笑させてくれたのでした。それ以来、マジンガーZ式の屋根を見かけると、あのポーズをした大垣先生の姿が思い起こされるのです。


 ある日私は、片側だけ立ち上がった屋根を見つけました。
 立ち上がった屋根の向こう側には勝手口がありました。この住宅は敷地も広く、落雪問題をご近所さんへ気兼ねする必要はないはずでしたが、勝手口を利用する家族へ被害が出てはいけません。それでこのような屋根の形になったのでしょう。私はこれを√(ルート)式と名付けました。大垣先生も天国から頷いてくれていると思います。しかし、残念ながらこの家以外にこの屋根型を見たことはありません。
 最近、あらためてこの家を見てみましたら、ルート部分が改造され重厚な造りとなっていました。さらに、地面から太い柱が立ち上がり屋根を支えているのが見えました。いいえ、支えているのではなく融雪水の縦樋なのかもしれません。しかし、外部の縦樋は融雪水が結氷するから絶対にやってはいけないはずではなかったでしょうか。遠藤明久先生が本の中でそのように書いていらっしゃいました。恐らく結氷を防ぐため、しっかり断熱してあるからにしてこんなに太い格好の柱型になっているのかもしれません。どちらにせよ、このように対処を重ねて延命を図る様子は、まるで人間を見ることのようです。お住まいの方の住宅に対する愛情がよく伝わってきます。
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