小樽の旭展望台近くにある小林多喜二文学碑。
本郷新さんにより、本の見開きをかたどったものとして制作されました。1965年に完成したものといいますから、本郷新さんの春香山のアトリエ新築の時期と重なっています。
その設計は田上先生ですので、設計の打ち合わせ中にこんな会話があったかもしれません。
「ところで本郷君、多喜二君の文学碑をやっているんだろう?どんな形にするんだい?」
「田上さん、こんな風に本の見開きをモチーフにするのですが、開いた感じを表現するのに苦労しています。どうでしょうか?」
「綴代を隙間にしているところやその隙間から綴じる部品が見えているところなんかいいねえ。天辺を斜めにしてみたら、もっと立体感が出てくるんじゃないかな?」
「そうですね。そのアイデア拝借させてもらいますよ。」
もしも2人にこんなやりとりがあったとしたら、そして百年記念塔設計者の井口さんも、完成したばかりの文学碑を見学しに来ていたとしたら。
「この形と質感、鋭い形にちりばめられた凹凸、隙間を通り抜けてくる風・・・。」
こんなインスピレーションが井口さんの記憶域に保存されたとしたら。想像するだけで身震いしてしまいます。
私の中で、北海道百年記念塔の出時にまつわる歴史が完成されます。
後日談
ある日、私はこの写真を井口健先生にお見せしました。
「うむ、確かに似ているね・・・。」と仰った井口先生、ほんの僅か微笑されたのはどんな訳だったのか、それ以上深くお伺いすることはできませんでした。