３週間前の豪雨で地盤が緩んでいるところへ台風１５号が上陸しました。

　ウチの前を流れる中野川が氾濫し、近所５軒が水没しました。両親は上り框の所で四つん這いになり、玄関土間に入り込んできた泥水を睨んでいます。床上浸水になれば、保険金が跳ね上がるらしいのです。学校に行けない私も、玄関土間の泥水を見つめてみます。その中に泳ぎまわる小魚を発見し、釣竿を取りに部屋へ走りました。玄関で釣りを始めようとして、何故か母に頭を殴られました。そして残念ながら、泥水は上り框ギリギリのところで引き始め、両親は夫婦喧嘩を始めたのでした。

　数日して水が完全に引くと、白衣を着た保険所職員が２，３人やってきました。そこらじゅうに白い粉を撒きました。
　「あれはＤＤＴだ。」
　強烈なにおいに鼻をつまんだ私の横で、近所の老人が呟きました。

　新聞が空知地区の壊滅を伝えた陰で、我が家にもこんな出来事があったのでした。