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blog/2014

さようなら佐吉

2014.10.24

 人形屋佐吉が解体されました。

 およそ20年前のある日、初めて佐吉のシャッターが開いているのを見つけたことを思い出します。雨の中でショーウィンドウからボワッと電球が灯っているのを確認し、引き寄せられるようにそろりと近づきました。「これを逃せば、もう二度と入ることはできないだろう。」と、躊躇心を捨ててドアを引きました。

 狭くほの暗い店内で、真っ赤なビロードの台に座っているドレス姿の金髪の人形達が上目使いで私を見ました。客に選ばれるというよりも新しい主を品定めしているような彼女たちの視線には、私に不合格を宣告しているような色がありました。ロッキングチェアにいる人形達は寝たふりをして無視をしているように感じられました。

 しばらくして、奥のイスに座っていた男性が声を出しました。「どんな物をお探しですか?」(「どんな娘をお探しですか?」だったかもしれません。)というその長髪のキモノ姿の男性は、久しぶりに札幌に帰ってきたところだとも教えてくれました。

 ハンスベルメールか四谷シモン、または土井典の作品のような人形にお目にかかれると勝手に想像していた私は、本格的なアンティーク人形の数々とそしてその値札の額にひるみました。フランス人形達には、私の勘違いが見破られていたようなのです。

 せめて、ここに記憶を留めよう。
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