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北陸銀行札幌支店の若い頃

2021.02.08

2009年の北光教会

 10年ほど前、当時の久米設計札幌支社長Tさんと創成川沿いを歩いていた時、外壁タイルの剥落に対処するためネットに覆われた北光教会を見て、Tさんはこう仰いました。
 「こういうの、むかし流行っていたんだよ。コンクリート打ち放し面とタイル面を対比させる感じね。教会の2年前にできた北陸銀行もそうさ。今はコンクリート部分を白く塗ったようだけどね。」

 「白く塗ったようだけどね。」という言葉に、塗らない方が良いのにというニュアンスを感じた私は、建築専門家との感覚の差を知ったのでありました。そして私も、塗らない方が良いのにと言える男になりたいと願ったのです。

2009年の北陸銀行札幌支店

 北陸銀行札幌支店のコンクリート打ち放し面が白くなったのはいつだったのでしょうか?3冊の社史に掲載された姿を整理してみましたら、1978年から1994年までの間に白くなっていたことがわかりました。

1974年以前 「北陸銀行30年史」より

1978年以前 「創業100年史」より

 白くない方が建物全体のゴロンとした塊感が伝わってきます。窓枠廻りの改造前の武骨な感じもゴツゴツ感を高めています。

 コンクリートは素地のままが美しく、余計な化粧はその魅力を殺してしまう。塊感を好む建築玄人は、この良さはわかる人だけわかればいいと考えがちではないでしょうか。しかしこれでは、白いホイップの乗ったチョコレートケーキのようには見えてきません。コンクリート素地のままでは、建築はツンツンと素っ気なく、こちらを向いてこないのです。

1994年以前の姿「北陸銀行50年史」より

 戦後近代建築のコンクリート打ち放しには「うすよごれた感じ」を、カーテンウォ-ルからは「軽薄な感じ」が伝わってきてしまい、なかなか明治の洋風建築のようなありがたさを感じにくいというのはもっともだと思います。しかし、これらの魅力を上手に発信できるようになり広く世の中に浸透すれば、近代建築だって大事に使い続けようとする人がもっと増えるのではないでしょうか。建築玄人には、このたゆまぬ努力が求められると思うのです。そうすれば、建物の保存運動などする必要もなく、新旧織り交ぜた深みある街が自然とつくられるのではないでしょうか。



 ちなみにですが、屋上の「鶴の舞」の色も変わっているようです。
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