珍建築

chinnazo/2019

アドバンテスト研究所

2019.07.01

小樽市星野町

1987年

佐々木宏
 小樽から札幌へ帰ってくる途中、高速道路で銭函インターを過ぎたあたりの左手に大きな建物が見えるでしょう。人気のない中にポツンというかドンと立っている様子に、どうも只者ではなさそうだという雰囲気が感じられます。建築に興味がなくても、その存在の強烈さに何の建物だろうかと気になっていた人も多いと思います。

 この建物は、富士通の子会社でアドバンテストという会社の研究所であったそうです。1987年に建てられたものですが現在は閉鎖され、窓はふさがれて付近は立ち入り禁止となっています。設計者は佐々木宏さん。1955年に北大工学部建築学科を卒業し東大大学院を経て、1950年代後半以降から建築雑誌に数多く執筆された方です。

 その佐々木さん、アカデミズムからは一歩引いた近代建築研究者として、強めの辛口批評と新しい海外の建築情報をたくさん紹介されていました。佐々木さんの文章は、普通の大人なら黙っている事をあえて言ったり、闇に葬られていたエピソードを書いたりしていて、楽しく読み進んでしまいます。また、本流の建築史に欠けている物語や誤った歴史を指摘された文章を読んで、その新味に驚かされます。

 さて、ずっと気になっていたこの建物が、佐々木さんの設計によるものだとわかったのです。外壁には、常滑の日本セラミックタイルブロックにつくらせた材料が使われています。建築材料に焼物が見直された1960年代初頭、佐々木さんもその色味の可能性に様々な実験をしてみたそうです。特にデンマークで手にした黄色いレンガを再現しようとされますが、コストの問題であきらめたそうでした。同じころ、坂倉事務所は青色のタイルを使って、塩野義製薬や札幌のホテル三愛に使ったり、一時期坂倉事務所のカラーとなったことが思い出されます。1987年竣工というこの建物にもまだ採用している様子を見ますと、佐々木さん、随分と気に入った材料だったのだろうと思われます。

 鉄骨造3階建て、1部4階部分から全体の勾配屋根につなげた屋根が大きすぎて、それがかえって深く印象に残ります。大型物件に勾配屋根を掛けた姿というものは、北海道の現代建築にはもう見ることはできないのですが、佐々木さんは、自邸でも頭でっかちの屋根を乗せています。そのアイデアの元が北海道出身だからとか、モダニズムの限界の突破口を風土性に求めたとかと簡単に決めつけてしまえば、私の軽口を矯正されるかも知れません。
Top