珍建築

chinnazo/2022

1968年 北海道大博覧会の住宅設計コンクール

2022.06.19

札幌市南区 真駒内公園内
 1968(S43)年に北海道百年記念行事の一環として、北海道大博覧会が真駒内公園で開催されました。札幌市は100万都市を目前に控え、4年後にはオリンピック冬季大会の開催が決まっている中、国際都市として一層の発展と躍進を願った内容でした。全国各地で開催されている博覧会と比較して、規模・内容・入場人数ともにそれらの実績をはるかに凌いだとのことでした。

北海道大博覧会  北海道新聞社 発行

 博覧会の構成や各館の基本設計は北海道新聞内の博覧会事務局と委嘱された古畑多喜男アートディレクターにより、施工は清水建設と竹中工務店、監理を三菱地所とのことでした。展示ディスプレーは乃村工藝社・ゼニヤ・六書堂・商工美術・丹青社などの有名どころが行い、当時としては良い出来栄えだったとの評価で閉幕しました。ただし、この2年後の1970年に開催予定である大阪万国博覧会の前哨戦とも捉えられた今回の博覧会に、大阪万博のディスプレーを担当されるという建築評論家 浜口隆一さんが厳しい講評をされたのでした。

 「道博はなかなか面白い豊かなものだったと思う。ただ残念なことは、北海道の建築家の設計的なエネルギーが余り取り入れられていないことです。どうしてこういうことになったのか、これはかなり考えて頂きたいと思う。~今度大阪で万国博覧会がありますが、この場合どちらかというと建築家が頑張りすぎるくらい重要な所を握りしめております。~大阪でやれることが北海道ではなぜやれないのですか。~主催の北海道新聞は(建築家の仕事をあまり)知らないわけですから、建築設計に携わっていられる方達が積極的に乗り出していくべきだと思う。~北海道の建築家に申し上げたいのは(主催者または道民や市民の建築観を)低レベルでほおっておくのではなく、建築あるいはデザインに関して育てておかなければどうしようもなくなると思いますね。」(ARC68 北海道建築設計監理協会作品集 昭和43年11月30日発行より)

北海道大博覧会  北海道新聞社 発行 緑丸の住宅にも注目!

 上記画像の通り、各館は単調に並べた倉庫群のように構成されました。建物自体にデザインはなく、確かに夢も希望も無さそうですが、開催決定からちょうど1年後に開幕という準備期間の短さ、開催場所の紆余曲折や閉会後の公園復旧の条件など頭を抱える問題もあり、関係者は浜口隆一さんの指摘には言い訳もしたくなるというのが正直なところだったでしょう。

 そんな中、博覧会に先立って北海道新聞社と住まいのクワザワ社が共催で「北海道に建つ明日の住まい」建設コンクールを開催しました。北海道における建築関係の初期コンペといえば北海道百年記念塔を思い浮かべますが、同時期に住宅のコンペがあったのです。応募総数は82点にのぼり、その中で優秀賞に輝いたのが円山彬雄さんの作品でした。

北海道大博覧会  北海道新聞社 発行

 その作品が博覧会場でモデル住宅として新築展示されたのです。(空撮写真の緑丸が建設場所)ガレージ付きの30坪、給水部分を中心に集めたコアシステムで、家族数の増加に応じて建増しを可能にできるものだったそうです。なんと受賞者の円山彬雄さんとは、アーブ建築研究所の圓山彬雄先生のことであります。圓山先生が北大工学部を卒業され、まだ上遠野建築事務所の門を叩く前に室蘭工業大学の講師をされていたときの住宅案であったのです。

 建築家のデビュー作品、そんなテーマの本が何冊も出版されていますが、まさにこの住宅が圓山先生の第1歩目なのでした。
 「コンセプチャルな平面計画で良い案だったはずだな。住まいのクワザワさんに渡しちゃったから図面は手元にないけどな。当時は収まりのことなんか全くわからないから、実施図はお任せしたよ。室工で働いていて札幌まで見物しに行く機会がなく、ついに現物を見ることはできなかった。そう、この家が欲しいという人が現れて、江別の方に移築されたらしいな。審査員?確か飯田勝幸さんだったような気がするんだよなあ。久しぶりにお会いしたいなあ。」

博覧会場から移築された元優秀賞作品 北海道の建築 1863-1974 北海道建築学会北海道支部 発行

 本当はもともと医学部に進むつもりだったという圓山先生。医者への夢を変更して工学部へ進み、卒業後に室蘭工業大学の新米講師としてスタートを切ったばかりの頃。そんなタイミングで提出した作品が優秀賞を獲得し、建築へ抱いた可能性がゆるぎない確信へ変わったのではないでしょうか?そのようなきっかけになった作品として眺めてみると、1人の男の人生を方向づけた作品として、そしてその後のご活躍の原点として、しみじみ見入ってしまうのです。


 この家の平面計画がどんな斬新なアイデアだったのか、気になって仕方がありません。
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