建築年表 住宅編

1950

池田恵邸

1950年

札幌市北区北21条西7丁目

現存せず

池田恵

根岸組

新しい札幌の建築作品集1947-1954 札幌建築士會発行より

 池田恵さんの自邸。
 1902(M35)年徳島生まれの池田さんが、愛知県建築課を経て1938(S13)年に札幌市建築部建築課建築課長として札幌へやって来られました。戦争も終わったばかりの1950(S25)年、池田さんが48歳の時に建てられたのがこの住宅です。

 余裕のある敷地には白樺の木のある花畑があり、小さな門柱と共にある三角屋根の姿が何とも穏やかな風情です。屋根勾配は緩く、羽目板と漆喰仕上げの壁面の中で白く塗装した窓枠が爽やかです。正面向かって右側リビングの窓は壁ごと跳ねだしつつ、玄関庇を兼ねた屋根でそのまま大きく被せています。

 このような意匠がまだ戦後のドタバタ時代に実現したという点に驚かされます。混乱さめやらぬ時代であっても、デザインの欲求は湧いてきたというのでしょうか。いいえ、池田さんは札幌へ来てからずっと不穏な時代を過ごしてきましたから、デザイン欲求に蓋をしつづけてきたのではなかったでしょうか。つまり、戦争中はデザインというものは余計なものであって、世間的にも隠さなければならないもの、もしくは我慢しなければならないものだったのではないでしょうか。しかし、戦争も終わって数年した時、その蓋をやっと少し開けてみたのではないかと思われるのです。明るく平和な未来を体現したような外観には、一般市民に元気や希望を与えてくれたのではないかと思います。
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