この建物は、上遠野徹先生の竹中工務店時代の先輩 中井一民さんによる設計と伝えられています。

　中井一民さんは、1940(S15)年に福井工業高等学校から逓信省経理局営繕課に就職されました。直属上司に都筑寅松（後の竹中工務店北海道支店長）、その上役に吉田鉄郎係長、さらに山田守課長という錚々たるメンバーのチームでした。ところがその後、戦局の激しくなったことが理由なのか、都築さんと一緒に竹中工務店バンコク出張所に転職されることになったようです。戦後しばらくして、竹中工務店の北海道出張所の創設所員となられ、定年まで勤め上げられました。

　さてこの建物は、シンプルな陸屋根のコンクリート打ちっぱなしの外観に、爽やかな白い窓枠と２階バルコニーの細い手摺りが華を添え、リッチな芝生の庭に居心地良さそうにしているのが特徴です。それまでの札幌にはちょっと見当たらない純粋モダニズムで、かなり精度の良さそうな仕上がりが写真から伝わってきます。

　その後の竹中時代の中井さんの作品には先鋭なモダニズムの香りはしなくなるのですが、それまでの逓信省時代の経験がこの建物だけには息づいているように見えてきます。特に吉田鉄郎の1937(S12)年 馬場氏烏山別邸に雰囲気が似ており、元上司への敬愛の情が感じられるのです。