建築年表 住宅編

chrono/1960

三菱商事 琴似社宅

chrono/1960年

札幌市西区山の手1条10丁目

現存せず

三菱地所

太平建設工業

北方建築VOL,4 No.26より

 昔の社宅建築に良いデザインはほとんどないだろうと思いこんでいた私でしたが、この建物を見て考えを改めました。三菱地所がグループトップ企業の社宅に本気を注ぎ込んだかのようなモダニズムぶりです。エッジの効いたバルコニーの飛び出し具合、幾何学的に割付けられたグリッドの深さが、平坦になりがちの社宅建築にリッチなアクセントを与えています。

北方建築VOL,4 No.26より

 とりわけ興味を惹かれたのが、居住世帯の境目に設置された花ブロックの存在です。1階から3階まで縦長に積まれた様子、ここだけにしか登場しない抑制されたセンスに、洗練された都会の風を感じました。平坦な壁面から立体的なグリッドへ、そして陰影のある花ブロックへ視線の動きが誘導されるかのようです。しかしこれは、単なる装飾なのでしょうか。

北方建築VOL,4 No.26より

 花ブロックは1階から3階へ続く縦穴を構成する材料のようです。その位置は台所流し台の真横になりますので、生ごみのダストシューターだったかも知れません。そうだとすれば、溜まった生ごみは各戸の物置のある地下で収集されたのでしょう。

 この社宅が解体された後には、やはり三菱グループの分譲マンションが建設されました。低く長く這ったような4階建てという姿には低層ならではのゆとり感だけではなく、私には以前に建っていたこの三菱商事琴似社宅へのオマージュも感じられるのです。
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