建築年表 住宅編

chrono/1963

Yさんのすまい

chrono/1963年

不明

不明

越野武

渡辺工務店

新住宅 昭和39年3月号より

 Yさん御夫婦2人だけのために建てられた平屋建17坪のかわいらしい住宅です。

 設計者は越野武先生。北海道大学工学部の助手をされはじめたばかりの頃、Yさんから初めての設計依頼をうけられたのだそうです。公庫融資を使用する条件だったので、簡易耐火構造のコンクリートブロック造での設計となりました。ちょうどその頃、北海道住宅公社が建て始めた三角屋根コンクリートブロック造住宅群の町並みは、戦後北海道を象徴する風景となっています。しかし一方では、その画一性が抱える没個性に対して新たな欲求が生まれてきたことも確かでした。

新住宅 昭和39年3月号より

 越野先生は、この問題を十分に意識されて設計をされたようです。切妻三角屋根を崩した外観は、ゆるい勾配で屋根がかけられ、小さいながらもゆとりある雰囲気になっています。玄関から居間へ入れば、勾配屋根なりの高い天井のある空間が現れます。南に面したベランダ窓はパーゴラで程良く直射日光が調整され、さらに吹抜け上部にある屋根なりに変形した高窓からも光が降り注ぐ仕掛けとなっています。この高窓は、空間全体をほんわりと照らしだしたことでしょう。当時はこのような光あふれる室内というものが憧れとされていたのではないかと思います。

新住宅 昭和39年3月号より

 居間の奥にはペチカで仕切られた寝室があります。ダブルベッドに横になるとペチカの向こう側の居間へ徐々に高くなっていく天井が見えます。寝そべりながら感じられる伸びやかな空間。それは目透かし貼りにされた長尺の天井板によってさらに深く印象付けられたことでしょう。当時20代中頃だったはずの越野先生は、このようなリッチな感覚をどこで学ばれたのでしょうか。元々お持ちだったのでしょうか、それとも影響を受けられた方がいらしたのでしょうか。
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