建築年表 住宅編

chrono/1965

S邸

chrono/1965年

札幌市中央区南10条

2013年頃解体

岩見田建築設計事務所

2013年

 この住宅の前を通るたび、その独特の存在感に立ち止まって眺めたものでした。道路側に窓が無く、真壁風の壁面を見せた外観とその奥に広がる大きな和風庭園に惹きつけられたからなのです。しかしある日の事、この住宅の竣工時が載った本を読んで、現在とは違うデザインで建ち上がっていたことを知りました。

竣工時 「北国の住まい6」 建設情報社1965年より

 建主は戦後のススキノをつくり上げた重鎮の1人、キャバレー「モロッコ」の経営者だったSさんでした。竣工時は、塀から玄関周りにかけて様々な石やタイルが貼り詰められて重々しさがあり、2層の軒と地面から持ち上げられた玄関ポーチが陰影深い立体感を演出していました。

玄関 「北国の住まい6」 建設情報社1965年より

 重厚な玄関から内部に入りますと、すぐに応接を兼ねた居間となります。その居間は吹き抜けになっていて上部はプロフィリットという特殊な大ガラスの組まれた採光空間となっていました。2階ホールの窓を通してプロフィリットがほのかに光っているという仕掛けのようです。玄関で重みを感じた後、居間では庭の眺めのある明るい吹き抜け空間で寛ぐことができるという設計テクニックです。

居間 「北国の住まい6」 建設情報社1965年より

吹抜け 「北国の住まい6」 建設情報社1965年より

 居間にある階段は、空中に浮いた稲妻階段のように見えます。生活感のない空間ですが、平面図を見るとダイニングスペースもありません。恐らく、経営に忙しいSさんは食事は常に外で済ませ、この家は休憩所のように使っていたのかもしれません。2階にもトイレと小さなキッチンがあるのでゲストハウスのようにも使っていたのではないでしょうか。そうだとすれば、当時の札幌としては大変リッチな家と言えると思います。

「北国の住まい6」 建設情報社1965年より

「北国の住まい6」 建設情報社1965年より

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