ホッケン研 訪問取材

第2回

定山渓ニューグランドホテル

2011年01月21日17:00~翌10:30 雪

田上建築製作事務所 田上義也

1971(S46)年

戸田建設㈱

札幌市南区定山渓温泉
 定山渓グランドホテル別館福寿苑で新年会を行うというお客様にくっついて、ホッケン研の新年会も便乗させていただきました。このホテル、1971年の田上義也設計ということはあまり知られていません。元は名前にニューという冠が付いていたのに、いつの間にやら寂しい別館扱いになっています。確かに、この3年前に設計したホテルアカシヤのような充実ぶりはあまり感じられないようです。
 狭い傾斜地に垂直性を強調させて建っており、札幌オリンピック景気にあやかる百貨店建築のムードが漂っています。玄関へのゴツゴツした階段を登りきると、絨毯敷きのゆったりとしたフロント空間へ到着します。足裏感覚からお客の心理を操作しようとするとは、なかなかやるなと、つい考えすぎます。フロントから宴会場へ至る導線は、スキップフロアで周囲を見下しつつ展開していきます。その途中にある中間層のロビーは、何と40年前のインテリアをそのまま残しています。一つだけ唐突に存在するロンシャン窓、蜂の巣状にデザインされたキーボックス、細い窓枠の大ガラスを石の床に直置きする等、細かな見所があります。
 しかし、どうしても解せないのが浴場です。金箔モザイクタイルが、壁一面に立体造形的に貼り巡らされています。何を意図したデザインなのか、皆目見当が付きません。
 明け方まで飲んだくれた後、照井さんと2人で朝風呂に向かいました。誰もいなく、まだほの暗い静かな浴場。むせ返る程、湯気が濃密に充満し、しばらく攪拌されていない湯の表面が異常に熱くなっていました。

 「しかし見れば見る程、意味不明ですね・・・。」
 深夜に照明を消して湯に浸かれば、月明かりで金箔タイルが妖しく光るのかも知れません。金屏風は闇の中でこそ美しく浮かび上がる、と何かで読んだような気がします。そんな優雅な事を思い巡らせているうちにのぼせて来ました。
 「先にあがりますよ。」

 脱衣場でゆっくりして、照井さんがあがってくるのを待ちました。なかなか来ないので、ロビーでも見学しようかと脱衣場を出ようとすると、すっかり湯冷めした照井さんが私を迎えに来ました。遅い私の様子を見に来たというわけです。

 もう少し粘って湯に浸かっていたら、金箔モザイクの秘密を教えてくれたのではないでしょうか?湯船でウンウンと私の話相手をしてくれた人は、きっと田上義也先生だったに違いないと思うのです。
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