ホッケン研 訪問取材

第3回

伊藤隆一邸

2011年07月02日13:30~19:30 快晴

宮脇檀建築研究室 宮脇檀

1969(S44)年12月

RC造・地上1階 地下1階

北建興業㈱

札幌市豊平区平岸5条
 1970年代に住宅雑誌を一斉風靡した宮脇檀さんの設計した住宅です。宮脇さんが「ぼっくすハウスシリーズ」で有名になる前の珍しい作品で、それが札幌に存在していることが驚きです。
 この住宅は、芸術家の父、新聞社勤務の母、そして小さな2人の子供たちのために設計されました。一見、雛壇敷地に平屋が乗っているように見えますが、地下に車庫と食品庫、サウナが埋まっており、そのような北欧風の素敵な暮らしを期待した伊藤さんの願いが表れているようです。構造は鉄筋コンクリート造なのですが、その内部はぬくもりある木肌を活かしたモダンリビングの先駆けとなっています。廊下を軸とした両脇に部屋が配されていて、その扉や襖を開け放つと広々としたワンルーム空間が出来上がります。マレンコソファに身をうずめ、天童木工のテーブルに飲みかけのコーヒーカップを置き、古いステレオでチックコリアなどを聴きますと、竣工当時にタイムスリップすることができます。
 廊下の天井には、明かり採りの丸窓が3つ開いています。なんと土管製だという円筒が屋根をぶち抜いて、屋上に飛び出た先には半球の透明アクリルがセットされていたのだそうです。初雪の夜、そのアクリルドームに軽く積もった雪は、室内の明かりをロマンチックに屋外へ照らしだしたのだそうです。アポロ宇宙船さながら、あそこの若夫婦は何か飛んだ事をしている、と噂になったにちがいありません。もちろん「檀(だん)ちゃん」は、寒さ対策と結露対策のためにそのアクリルを2重にしたのだそうです。しかし思惑通りの断熱効果は発揮されず、奥様は激しい結露に頭を抱えることになってしまったそうです。結局、アクリルドームを諦めざるを得なくなり、屋上を最新技術で葺きなおしたとのことでした。今もその遺構が残っています。

 ところで建主の伊藤隆一さんは最初、竹山実さんに設計依頼をされていたそうです。今となってはその理由はわからないようですが、途中で設計者が竹山さんから宮脇檀さんへ変更されたのだそうです。そのあたり、どんなドラマがあったのか興味深いところです。更に後年、玄関周りの改修工事をするにあたり、地元の設計者が良いだろうと考えられた宮脇さんは倉本龍彦さんを推薦されたそうです。道路からの眺めが倉本風デザインだったので、伊藤隆一邸を倉本さんの設計と思われている方が多くいらっしゃいます。建築マニアの皆さん、よく見ているのですね。
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