上遠野 徹 作品アーカイブス

katono/1959

栗谷川 健一邸

katono/1959年

札幌市中央区円山西町

現存

竹中工務店北海道支店
 北海道を代表するグラフィックデザイナー 栗谷川健一さんのアトリエ付き自邸。

 神社山の原生林を背景とし、高台の上にせり出すようにして建っています。片流れ屋根の方向が山の稜線とせめぎ合い、自然に対する人工美が一層強調されているようです。

 竣工時の写真では、周りの樹木が無いために家の姿が良く見えます。はね出したバルコニーが、ワイヤーで壁から吊られているのも印象的です。マルセル・ブロイヤーの自邸(1945年)が思い浮かんできます。

 モダン住宅というものは、自然と対峙し立ち向かった姿にこそ、その本領が発揮されているのではないかと思われます。

「すまい」1967年12月号より

 竣工時は、こんなに明るい色の外壁だったそうです。爽やかな緑の芝生の丘に原始林の木々を背景として浮かび上がる栗谷川邸。この若々しい自信たっぷりの存在感にこちらまで元気をもらえそうです。ところがこの色は、程なく焦げ茶に上塗りされたようです。恐らく風雪に痛めつけられ、汚れたり擦れた色に劣化したのではないでしょうか。もう一度、竣工時の姿を見てみたいのは私だけではないでしょう。

「すまい」1967年12月号より

 家の前を走る藻岩山麓通りが整備される前は、現在のようにコンクリートの擁壁の上にではなく、小高い丘の上にすっくと立つロケーションであったようです。やはり、この竣工時の姿のほうが美しく、配置やデザインもふさわしいと思います。玄関への道程に、登ってみたくなる階段を素直に使うのも良いし、子供のように緑の丘を駆け上がってもみたくもなります。

 栗谷川健一さんが亡くなられた後、しばらく無人状態が続いていましたが、2006年になって不動産会社に処分されそうになり、行く末を案じました。しかしその後、この家の魅力を大変良く御理解されている方に住まい続けられることになりました。

 やたらと古い住宅がカフェ等の店舗として再生されがちな昨今に於いて、住宅が住宅として使い続けられる事は、家にとっても一番嬉しいことに違いありません。
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