上遠野 徹 作品アーカイブス

katono/1963

皆藤 健邸

katono/1963年

札幌市中央区円山西町

現存

巻工務店
 札幌のテレビ局への就職を機に、東京から札幌へやって来られた皆藤御夫妻。札幌での新婚生活を始められたある日、建築雑誌に掲載された「栗谷川健一邸」にすっかり魅了されてしまった奥様は、その設計施工を請負った「竹中工務店」の「上遠野徹さん」に自宅建設の相談をしようと一念発起されたのだそうです。

 小さな工務店と思っていた奥様は、生まれたばかりの赤ん坊を背負ったまま大通西6丁目(当時の竹中工務店所在地)にあった4階建の立派なビルを仰ぎ見て、本州企業の建築会社と初めて気がついたのだそうです。躊躇心を振り捨てて上遠野先生を訪ねた奥様に「外でお伺いしましょう。」と喫茶店へ導かれた時は、それが了承のサインと理解でき、一安心されたそうです。当時は、組織に所属していながら個人的に仕事を請負うことも広く認められていたという時代の生々しいエピソードです。

1階 居間

2階 和室

2階 玄関上の部屋

 というわけで、この住宅は竹中工務店の工事ではありません。しかし上遠野先生は、信頼している竹中工務店下請けの巻工務店へ数枚の設計図を渡し、詳細については通じ合っている吉田棟梁へ全て任せたのだそうです。細かな設計図は省略したのでしょうが、居間や和室のL字に開いた大開口は、高橋邸・栗谷川邸・今野邸・川上邸に引き継がれてきた上遠野先生の真骨頂です。玄関へのアプローチを張り出した庇の下へ引込む方法は栗谷川邸を連想させ、きっと奥様を満足させたことでしょう。

 同年竣工の真木邸と並べてみると外観の類似点を感じることができ、栗谷川邸~真木邸への流れを理解するのに外すことのできない住宅です。現存する初期木造住宅を今こうして見ることができるのは大変貴重ですし、ホッケン研の訪問取材もさせていただきました。
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