上遠野 徹 作品アーカイブス

katono/1967

森鼻邸

katono/1967年

札幌市中央区南11条西 

現存(飲食店に改装済)

竹中工務店北海道支店

「ARC68」 北海道建築設計監理協会 1968年より

 1965年、北海道銀行初代頭取の島本融さんに招かれて大蔵省より北海道銀行へ入行した森鼻さん。入行2年後には、早くも第3代目の頭取に就任されました。この住宅は、その就任と同じタイミングで完成した森鼻さんの自邸です。

 謎多きこの森鼻邸。東京生まれの森鼻さんは自分の家を建てるにあたって、京都生まれの島本さんに相談されたに違いありません。島本さんは、田上先生が設計された元小熊邸という自邸に森鼻さんを招き、全幅の信頼を寄せる田上先生の推薦くらいはされたはずでしょう。それに森鼻さんは、入行時に完成した田上先生の手による道銀東京公宅も見ているはずです。それにも関わらず森鼻さんは、竹中工務店に設計と施工を注文したのでした。

 竹中工務店が道銀本店ビル建設を請け負った縁で馴染みとなったのか、
 設計課長上遠野先生のテクニックに惚れ込んでしまったのか、
 それとも何か特別の事情があったのか、
 ともかく森鼻邸の設計担当になったのが、上遠野先生だったのでした。

 この住宅の写真をじっと見つめてみます。RC壁構造の住宅ですが、大きな壁面が印象に残らないように工夫するのは、上遠野先生の技です。重々しくならないように開口部を大きくとってありますが、いつもの明快な窓割りデザインではありません。総2階建を包むように大きく深くかけた屋根が、他の住宅より厚ぼったい気もします。もしかすると、竣工を急いだばかりに細部について妥協せざるを得なかったのではないでしょうか。または、繊細なデザインよりも剛健性が要望されたのかもしれません。きっと上遠野先生にとっては満足な仕事ではなかったような気がします。しかしここで実現できなかった細やかな設計が、後の大滝邸での設計に結実したのではないかとも思われてきます。

 公での発表がされなかったこの森鼻邸。VIP自邸だけに情報が抑えられたのか、発表するほどの満足感が無かったからなのか、今となってはわかりません。

 現在は、料理屋として生まれ変わっているこの森鼻邸。以前ここで食事をしながらも、上遠野先生の足跡に気がつかずに帰ってきた感度の鈍さばかりが記憶に残っています。

現在の森鼻邸 2013年春

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