上遠野先生が亡くなられた翌年明けに、「偲び会」がこのヤサカで執り行われました。その挨拶の中で、「ヤサカは上遠野先生の設計によるもので・・・、」と、由縁を披露頂いた際、僅かに会場がざわつきました。私も「えっ?!」と声を出してしまった1人ですが、参列されたほとんどの人だって上遠野先生と「ヤサカ」が結びつかなかったに違いありません。
鉄筋コンクリートの柱と梁を明快に表現し、その間に挟まれた部分には大きな窓が寸分たがわずはまっています。これぞ上遠野先生によるモダニズム真骨頂であるのに、言われるまで全く気が付きませんでした。上遠野先生の設計だと知った後は、この建物の脇を通るたびに「美しい建物だなあ。」と、うっとり見つめる手の平返しの私なのでした。
モダン建築に見えなかったのは、飾りの屋根が付いていたからなのかも知れません。もちろん和風を求められたはずなので、軒をスパッと切り上げるわけにはいかなかったでしょう。そこが誤解を受けた点かも知れませんし、80年代に入ってからは教会やホテルでの結婚式が主流になって、何やら古めかしい印象になってしまいました。
数年前の外壁塗り直しでレトロ具合がアップして若者受けも期待できそうでしたが、「昭和の建物で結婚式と披露宴」というような盛り上がりは見られませんでした。モダニズム建築の再評価の時代にも注目されることはなく、そして、ひっそりと解体工事が始まったのでした。
私は君の魅力に気がついたのだよと心の中で言いながら、シャッターを切ったのでした。