建築年表 公共編

kochizu/1959

日本清酒「丹頂蔵」札幌酒造工場

kochizu/1959年

札幌市中央区南3条東5丁目

日建設計工務 北海道事務所

清水建設

竣工時北方建築 1959年9月号より

2023年

 日本清酒(株)の設立30周年を記念して建設されたという札幌酒造工場「丹頂蔵」。最新設備と合理的な生産動線があって明るく衛生的、そして当時国内最大という規模で誕生しました。外観は柱と梁をコンクリート打ちっぱなし、壁面を2丁掛タイルとモルタル塗りとしていました。現在はモルタル塗り部分の色が擦れていますが、竣工時はベージュ色だったと推測され、さわやかな雰囲気だったのではないかと思います。

南側立面図北方建築 1959年9月号より

 コンクリート打ちっぱなし面は小幅板パネルの木目が表面に写りこんでいて、この時代らしい跡が現れています。屋上にあるプレキャストコンクリート製の物体は立面図によると手摺だそうです。手摺ならば金属の棒で良いと思うのですが、板状にして内側へ傾けているところを見ると、これは雪庇防止の役割も果たしているのかもしれません。竣工から60年以上経過しているにも関わらず傷んでいないようですので、設計デザインも正解、耐久性も合格だったと証明されたようです。

正面外観北方建築 1959年9月号より

 さて、この札幌酒造工場「丹頂蔵」は周辺道路から見える外観だけでなく、内側にひそんだ入口側の姿もまた見応えのあるものでした。2階から4階にかけて連続した水平窓が重々しい工場に軽やかさを加えているのですが、北面の窓なので可能となった大開口なのかもしれません。
 そして、工場棟から飛び出した非常階段にも目が釘づけとなります。ガラスとコンクリートの造形物に存在感のあるスチールサッシの枠がアクセントを添えています。あら?これはどこかで見たことがあるぞと記憶の糸を手繰りよせてみますと、その答えは札幌市民会館の非常階段にあったのです。

札幌市民会館 西側立面 新建築1958年12月号より

 札幌市民会館はこの酒造工場「丹頂蔵」の前年に竣工しました。ともに日建設計工務の仕事ですが、名古屋支店がデザインした札幌市民会館の非常階段を北海道事務所の設計担当者が酒造工場にアレンジして設置したようなのです。2つを比べてみますと前者の方が洗練されていますが、これをそのまま工場にくっつければ逆にアンバランスになると修正されたのかもしれません。しかし、そのままくっついた姿というものもまた見てみたいものでした。

日本清酒 本社並びに丹頂蔵全景日本清酒株式会社五十年史 昭和53年発行より

 今回は赤丸印をつけた清酒工場「丹頂蔵」に注目してみましたが、この北側にある1957年竣工の「瓶詰工場」や1953年竣工の「本社社屋」にもミッドセンチュリー建築の魅力が溢れています。南3条東5丁目は私にとって、奇跡の1町角なのです。
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