失われた建築

lost/2021

池見学園 札幌ゼミナール

2021年
解体

2021.04.12

札幌市南区藤野1条10丁目

1974年

栄建築設計事務所 栄米治

住石扶桑工業
 2020年3月で閉校していた池見学園。
 校舎の設計をしたのは、栄米治さん。栄さんは1904(M37)年に広尾町で生まれ、東京美術学校(現東京芸術大学)の建築科を卒業されました。その後、樺太庁を経て北海道電力に勤め、およそ20年に渡って社屋や発電所などの設計をされました。定年退職後は自分の設計事務所を設立され、1976(S51)年に71歳で亡くなられるまで精力的に設計活動を続けられました。

 この池見学園は栄さん晩年の作品となります。尖がり帽子のついた塔屋がメルヘンチックな印象で、定山渓方面へ車を走らせる時には必ず目に入る建物でした。それまでの栄さんの作風とは違うデザインですが、施主の要望を受け入れたのかも知れません。

 栄さんが、北海道百年事業であった赤れんが庁舎の復元現地保存に異を唱えたり、駅前通りのビルは高さを揃えて調和のとれた美を盛り込んだ街づくりをしなければならないと訴えられたりされたことについて、今同意することは難しいです。しかし、熱供給公社の巨大煙突を止めさせるよう担当者を熱く説得されていたことと同じ美学だったのでしょう。栄さんのご意見がどんな意図だったのか、よく考えてみる必要がありそうです。

 仕事への真剣な姿勢とは違い、普段は温厚・謙虚・誠実・絵画や俳句を好む豊かな感受性、栄さんを語る方々から発せられる印象にはブレがなかったようです。
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