失われた建築

lost/2021

N邸

2021年
解体

2021.10.04

札幌市西区山の手1条8丁目

2021年 解体
 鉄筋コンクリートの基礎で持ち上げられた平屋の住宅。
 こう言われると、1956年吉阪隆正さんの浦邸、もしくは1958年菊竹清訓さんのスカイハウスを思いつきます。もちろんこれら2軒にこめられた近代建築のコンセプトは、この住宅にはありません。持ち上げた理由は、雪国ならではの悩み、冬季間に家の周りに積もる雪への対処です。

 雪が容赦なく積もると、1階の窓を覆ってしまうことがあります。また、屋根からの落雪で窓を破ることがあるから、備えに窓を板で塞がなくてはならないこともあります。それに大雪地帯では、平屋の住宅がすっぽり埋まってしまうこともあるのです。

 そんな条件でも安心して冬を暮らすため、1960年代中頃より基礎高にする家が登場しました。このN邸は、基礎の上に平屋が乗っているだけのカッコいいプロポーションでした。

 ドカ雪の降った翌早朝、大きな窓を開けて雪景色を見下ろしたときの感覚を理解できましょうか?あたり一面の雪に照り返すまぶしい朝日を浴びながら、塵ひとつない冷たい新鮮な空気を胸一杯に吸い込みつつ、家はビクともしなかったという安心、満足に身を浸す。この家なら、雪に憂鬱を感じることもなかったでしょう。
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