失われた建築

lost/2021

北海道立衛生研究所・北海道立衛生学院 合同庁舎

2021年
解体

2021.11.15

札幌市中央区南2条西15丁目

2021年 解体

1961年

もしかすると電建築設計事務所 栄米治さんかも

不明
 いつの日か なりすまし業者として潜り込まん 巻尺とヘルメットを小脇に抱え

 今年の春、このような歌を詠みつつ内部へ入らんと希いましたが、それも叶うことがありませんでした。
 札幌の近代建築の中で、このデザインは少し珍しかったと思います。壁面に凸凹が多ければ多いほどその部分に雪が積もり、溶けたり凍ったりを繰り返すことで痛みが早くなるので、そのような凍害の発生を避けようと、札幌には凸凹の少ないフラットな壁のビルが増えたからです。さっぱりとした街の風景に見慣れてしまったせいで、札幌の近代建築に物足りなさを感じていたのは確かです。ですから、この建築の立体感は格別でした。鉄筋コンクリート造にも関わらず、人の手仕事の跡やそこから醸し出される温かみを感じることができたのです。

 そこへ加えて、スチールサッシとの組み合わせが表彰状レベルと賛辞を贈りました。ところがこれは誤りでした。よくよく見れば鉄製ではなく木製のサッシであり、サッシ上端が繊細な板金処理をされていたのです。ビルでありつつ古い住宅のような味わいなのです。

 戦後の住宅には、よくある窓の細かな処理だったと思いますが、現代のビルにこのような細部はないでしょう。札幌の歴史書の大事な1ページが破けて無くなる、そんな気分になります。
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