懐かしい風景

nostalgic/2011

つららの風景

2011.01.29

札幌市
 軒先から下がるつららのある風景。長年、北国の風物詩でしたが、近頃の札幌に於いてはほとんど見かけることが出来なくなりました。

 子供の頃、つららを見つけると必ず壊しながら歩いたものです。
 更には、アイスキャンデーさながらに噛りついた事、
 チャンバラの武器とした事、
 自分の背丈よりも大きなやつを大事に折り取って宝物にした事など、
 どんどん記憶がよみがえります。

 この住宅を見ると、そんなつららの記憶だけではなく、8年前の事も思い出されてきます。

 その頃、この住宅がBASS(バス)という名の酒場として使われていた一時期がありました。住まいが近かったので、よく通いました。「BASSに寄って帰る。」と家人に連絡すると、電話の向こうに怪訝な表情を感じます。恐らく「BATH」と聞こえるのでしょう。つまらない下ネタは置いておきます。

 この店、冬はとても寒い。ストーブの暖気が屋根裏に流れて行ってしまうのでしょう。そんな夜は、マスターと強いスコッチを飲み合います。酔ってくると必ず昔話になりました。

 このマスター、70年代初頭の頃はサックス吹きだったのだそうです。渋谷のジャンジャン、新宿のピットインと言えば伝説のライブハウス。しかし、そんな一流所で出鱈目のアドリブを延々と演っていたのだとお話ししてくれました。
 「そんな事、誰も気付かないからいいんだ。それでも最前列の女の子達がウットリと俺を見つめるんだよ。」と笑っていました。
 「毎晩、そのうちの1人を旅館へ連れて行ったもんだ。」と腕を組んで遠くを見つめます。
 当時の青春小説に出てくる話を地で行っていたようです。
 私にはそんな東京の昔話を聞けることが一番の楽しみでした。

 その後、札幌に戻って始めた仕事が、仏壇塗替仲介業。
 世の中には、色々な仕事があるのです。
 大きな家を選んでの訪問販売である。
 仏壇を見せてもらっては、親切に難癖をつける。
 マスターのトークとグルの塗替職人との連携プレーで一財産作ったのだそうです。


 ある日、店に行ったら看板が外されていました。元のひっそりとした家に戻っていました。2階で寝たきりのお婆ちゃん、たまに店に下りてくる壮年男は今でも2人で暮らしているのでしょうか?そしてあのマスターは、第3の人生へ旅立って行ったというのでしょうか?

 今日、久しぶりに立ち寄ってみたら、以前と変わらずつららの風景を見せてくれていました。
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