ススキノに老舗の郷土料理店として名高い「夢蘭(むうらん)」という店があります。北海道最大の生簀が店内中央に配置されていることで有名です。その生簀の中で、多種多様の魚達が悠々と回泳しています。さながら、ムーラン・ド・ラ・ギャレットで舞踊する紳士淑女達のようです。しかし、その四方を取巻くカウンターの人間達から指名を受けると、板さんに掬い上げられて捌かれてしまうのです。魚貝達にとっては、恐ろしい舞踊会場なのです。もしも、店名の由来が私の推測通りだとしたら、夢蘭さんよ、悪だのう。
さて、この店が明日を以て閉店してしまうという噂を聞いたのです。無論、その最期を味わわなくてはなりませぬ。目的は、店の奥に密む「蔵座敷」の鑑賞であります。