懐かしい風景

nostalgic/2011

夢蘭 「蔵座敷」 享年81歳

2011.04.21

札幌市中央区南5条西4丁目

閉店 (2011年4月22日)

1930年

室内施工者 加藤親子(指物師)
 ススキノに老舗の郷土料理店として名高い「夢蘭(むうらん)」という店があります。北海道最大の生簀が店内中央に配置されていることで有名です。その生簀の中で、多種多様の魚達が悠々と回泳しています。さながら、ムーラン・ド・ラ・ギャレットで舞踊する紳士淑女達のようです。しかし、その四方を取巻くカウンターの人間達から指名を受けると、板さんに掬い上げられて捌かれてしまうのです。魚貝達にとっては、恐ろしい舞踊会場なのです。もしも、店名の由来が私の推測通りだとしたら、夢蘭さんよ、悪だのう。

 さて、この店が明日を以て閉店してしまうという噂を聞いたのです。無論、その最期を味わわなくてはなりませぬ。目的は、店の奥に密む「蔵座敷」の鑑賞であります。
 無垢のケヤキの階段を登り、札幌軟石の蔵の入口へ踏み込みます。昭和5年にしつらえられたという赤松の皮付丸太柱、杉アジロ天井、じゅらく壁からなる和空間に身を浸します。この部屋は、ススキノの歴史を80年以上も見つめてきたのです。恐らく、札幌の政財界の重鎮達がここに座って、将来の事を語ったり、陳情を聞いたりしてきたのでしょう。しばし、熱燗をやりながら感慨に耽ります。
 明日が最後の営業日です。一見客の私が、こんな大事な夜にいても良いのかと心配になりつつ、大いに満喫しました。 2011.4.21
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