懐かしい風景

nostalgic/2013

「札幌クラブハイツ」さようなら

2013.02.21

札幌市中央区南5条西3丁目
 この世に残った最後の証人が静かにその幕を下ろす時、立ち会いたいというのが私である。日本に残る最後のグランドキャバレー「札幌クラブハイツ」が、2013年2月末日を以て創業43年の歴史にピリオドを打つという。同時代に生きたものの証として昭和の残り香を体験しておかねばならぬと、財布を膨らませて出発をしました。御賛同頂いた同行者は、松林常与氏(仮名)65歳と八村明氏(仮名)36歳であります。

入店した時の様子

 勢い余って店に一番乗りした我々は、ステージ前の一等席に座らされました。
「ホステスが来るまで30分ありますので、それまでは男同士で飲んでいてください。」と黒服が笑って戻っていきました。

店内を歩き回って

 真っ赤なチンチラソファに身をうずめ、金パイプを触りながら、黒い天井から無数にぶら下がりながら妖しく光る透明アクリルに目を凝らす。席を立ってステージの方へ緩く傾斜した1000㎡の無柱空間を歩き回っていると鈴なりの女性達がやってきました。

 ベテラン、準レギュラー、満席の時だけ呼び出されるヘルプのホステス3人が我々の席につきました。向こう側では、最古参の30年選手が和服姿で常連らしき客の相手を始めたようです。指名をすれば昔話を聞けるかも知れない。指名料は幾らくらいなのかと考えていると「頂いてもいいですか?」と隣のホステスがつぶやきました。何を飲むのかと聞けば、氷の入ったグラスを差し出して「ビール」というではないですか。我々の残した温いビールをアイスビール「アイビー」として蘇らせるのだといいます。
 ステージが始まって照明が落ちると各テーブルのランプが暗闇に残ります。ホステスがランプのスイッチをひねって緑色に変えると、黒服がビールの瓶を交換しにきました。後ろのボックスの若い男が、ステージの途中でトイレに立つのはマナーを知らない奴だと上司から忠告されているのが聞こえてきました。そのタイミングでベテランさんから延長するかどうかを問われた我々は、痛い耳を押さえながら席を立ちました。

 あとになって私は、ホステスさんから名刺も頂いていなかったことに気がつきました。  
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