懐かしい風景

nostalgic/2019

挫折の記憶 可否茶館倶楽部

2019.11.01

札幌市中央区南8条西18丁目
 昔のタウン情報誌を読んでいたら、今は無き可否茶館倶楽部が載っていました。南8条西18丁目の南9条通りに面してあった古くて立派な住宅を改装した喫茶店でした。私が大学4年の時、就職活動のOB訪問で「じゃあ、可否茶館にでもしようか。」と指定された場所でした。

 当時はまだバブル景気の残り香があって、先輩たちは誰もが知っているような名前の会社にどんどん入社していきました。しかし私の代が就職活動をする1993年になって、世の中の会社という会社はバブル崩壊に対処するため、新卒採用を大幅に縮小しました。更に追い打ちをかけるように、私の志望会社は来年は採用を見合わせますと残酷な発表をしたのです。それでも私は、アルバイト先の店長が知り合いで且つたまたま大学の先輩だという方に何とかOB訪問をさせてもらったのです。

 席に着くと「ここは昔、偉い人の家だったらしいよ。」と、OB先輩が話を始めてくれました。先輩がこの店を選んだセンスの良さを私はわかります。(だから私は先輩のいる会社へ入社するのにふさわしいと思います。)と、さりげなく自己PRしたような記憶があります。

 「実は、コネ枠採用をするんだ。」と、OB先輩は周りを気にしながら声を低くして教えてくれました。もちろん私には何のコネもありませんでしたが「君は熱心そうだから、面接は受けられるようにしておいてあげる。あとは運と縁だ。」と言われて、店を出ました。

 結局私は、いくつか進んだ最終面接に落っこちました。

 就職活動も下火になった秋に厳しい現実に放り出され「コネも実力だからな。」と知った顔をした友人にうなづき、内定を獲得したコネ学生を軽蔑し、可否茶館倶楽部を八つ当たりするように怨んだことが思い出されました。


 もし、あの面接に通っていたら・・・と、本を閉じながら想像してみるのです。
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