懐かしい風景

nostalgic/2022

PASS BY(パスバイ)

2022.01.13

札幌市中央区南1条西20丁目

現存

1984年

乃村工藝社北海道事業部・巴建築設計・企画はOさん

丸竹竹田組

商店建築増刊 商業ビル1985より

2022年

 真っ白なヴィーヴルがオープンして程なく、今度は裏参道の入口にパスバイが登場しました。ヴィーブルは軽快で開放的な集いやすい建物でしたが、パスバイはそれとは逆にレンガタイル貼りの重々しい外観でした。

 これら2棟が同一人物による同時期の仕事という点に驚かされます。企画者のOさんは1955年の札幌生まれ、早大で建築学をそして途中から法大で社会学を学ばれ、Uターン就職されたとのことです。1970年代の東京文化をたっぷり吸収したOさんは、ご自身の企画会社を設立すると溢れるアイデアを次々に実現させたようです。

 パスバイをヴィーブル風のデザインで繰り返しても良かったはずです。札幌のような地方都市での商売は、すぐに次の一手を打たずに出来るだけ引っ張るというのが常套手段ではないかと思います。しかし、そうはしないですぐにヴィーブルに背くようなデザインをするという戦略に「やられた・・・。」と思った人も多かったのではないでしょうか。また、建築だけでなく社会学を修めた方が提案する記号論的な街づくりに新鮮なものを感じたのではないでしょうか?

商店建築増刊 商業ビル1985より

2022年

 入りにくい雰囲気のパスバイへドキドキしながら足を踏み込んだ時の感動が忘れられません。地下から3階までの柱に取り付いた広く緩やかなウッドの螺旋階段は共用スペースも兼ねていて、万華鏡を覗き込むような感覚で外周のお店を巡らせるのです。ある任意の場所から全てのお店を眺めることのできる段違いスキップ空間、外観からは想像もしなかった内部の展開に、いつまでも味わっていたいと居続けたものです。

商店建築増刊 商業ビル1985より

 わざわざ名付けたPASS BY=立ち寄る、というネーミングとやや大きすぎるサインを斜めに取付けた方法に、札幌市民を知り尽くして突き放し切らないOさんの計算を、そして、突き放し切れないOさんの人情を感じます。
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