素敵な建築

suteki/2015

ルールに安住することへの警告、小さなこだわりからの自由

2015.05.22

現存

2015年

五十嵐 淳
 五十嵐淳さんによる最新住宅のオープンハウスへお邪魔しました。コンセプチャルな建築哲学の切り口で語られることの多い五十嵐さんの作品には、ボクサーのように構えて拝見する必要があります。まずは外観を3周して体を臨戦態勢に整えようではありませんか。

 私が内装材メーカーに勤めていた時、五十嵐さんからビニールクロスのサンプル依頼を頻繁にいただきました。しかしその当時は、バブル期の反省から材料そのものの持つ力が見直されていた時だったのです。床は無垢板材、壁は塗り、貼り物には和紙や紙を採用すべきで、ビニールクロスなんて納戸くらいに使うかなという建築家が圧倒的でした。そんな中、五十嵐さんという方は、素材の力に頼らずに空間の魅力をつくる方なのではないかと注目しました。

 というような事を思い出しながら、外壁に貼られた構造用合板を撫で歩きました。しかし、私の指先が合板の隙間に触れて、?マークが点灯したのです。よくよく見てみれば、合板が目透しで貼られています。その10mm程もある隙間を覗いてみれば、黒い透湿防水シートが見えているではありませんか。

 合板の隙間から竹串でシートをブスッとやりたくなる欲求を抑えながら、全く五十嵐さんという方はミサイルのボタンを押す人だなあと思いました。

 昨年、圓山先生の講演会でこんなお話を聞きました。「我々は通気層工法とひきかえに、モダニズムを捨てなければならなかった。」と。通気層工法の外壁は表皮であり、北国の住宅で建築の生の美しさ、力強さをダイレクトに表現することはもう不可能であると。

 皆が当たり前のこととして受け入れているこの工事方法。五十嵐さんは、この工法を採りながら目透しの隙間から住宅の裸をさらしているのではないでしょうか。つまり、表皮を十分に意識しつつ、それでも尚モダニズムは表現できるのだという宣言に見えるのです。目透し部分からの水や雪の心配について語ることは、この場合、野暮ということになりましょう。
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