杉浦さん、やっぱりそこから触りだすんですね。さすが、組石フェティシストだなあと思いつつ、確かに見過ごすことのできない謎と思われました。いくら断熱レベルの低い時代の建築とはいえ、そして低予算の現場だったからとはいえ、倉庫の為の小端空間積み方法を教会建築に採用するでしょうか?
さっそく、聖ミカエル教会の設計図を確認しますと、小端空間積み内部の空間には鉄筋があり、コンクリートが充填されているようでした。レーモンド事務所による教会建築を眺めてみますと、55年の聖アルバン教会、60年の聖ミカエル教会、65年の新発田カトリック教会に共通した積み方となっていることも確認できました。
さあ、この謎をどうやって解消すれば良いのだろうかと思っていたところへ、O建築設計室様から忘年会のお誘いを頂きました。その忘年会に、レーモンド事務所出身でいらっしゃる三沢浩先生もご出席されているというのです。
遅刻して到着してしまったところ、三沢先生は既にストレートの竹鶴21年をかなり飲んでいらっしゃるようでした。横についてお酌をさせて頂きながら頃合いを見て「ところであの煉瓦の積み方ですが・・・。」と伺った時には、もう酔いも進んでいらっしゃったので「ん?イギリス積みでなかったかなあ。」というお答えでした。これはアルコールが入る前にお伺いしなければならぬと、翌年の忘年会に照準を合わせたのでした。
さて1年待った忘年会に、聖ミカエル教会の設計図のコピーをポケットに忍ばせて参加させて頂きました。ニッカウヰスキーをお酌しながら、ポケットから小さくたたんだ設計図をゆっくり開いてお見せしました。
「おおっ!?これは僕が描いた図面だよ!なぜ君が持っているんだ?」という大爆弾に打ちのめされ、その後は礼を失い、ばらばらと質問攻撃に打って出ました。その内容をまとめれば、下記の通りとなります。
吉村順三さんから推薦されて、東京芸術大学建築科を卒業と同時にレーモンド事務所に入所。ちょうど聖アルバン教会の設計中で、レーモンドから指令が出た。
「ヒロシ!丈夫ナ煉瓦ノ積ミ方ヲ考エナサイ!」
僕は当時は小端空間積みなんて知らなかったし、コンクリートとよく絡む積み方を考えた結果こうなったんだ。たまたま偶然なんだよ。それをレーモンドに見せたら、彼はこう言った。
「ヒロシ。オーケー!」
しばらくして聖ミカエル教会の設計が始まった。煉瓦の図面が進まないスタッフに聖オルバン教会で考えた積み方を教えてあげたんだ。ほら、この断面図は筆跡が違うでしょう。ここが僕の描いたところなんだよ。
その三沢先生の描いた部分は、煉瓦をしゃくってスリット窓のはまっている様子も表現してありました。
興奮してきたところに、高級酒ペルノアブサンのボトルが登場しました。
「あっ、これうまいですよね。ドビュッシーやランボーも好んで飲んでたという。」とキザを気取った私に、
「貧乏芸術家の酒さ。僕の入所当時、安給料で飲めたのもこれだったんだ。」と教えていただき、バカな発言を切り刻んでゴミ箱に捨てました。
「いつも0時を回ってから事務所を出て、新宿の安酒場で飲んでいたんだ。懐かしいなあ。」とストレートで飲みだした三沢浩先生にペースを揃えてみました。
そのあたりからの記憶は、もちろん、ありません。 2016.1.1