素敵な建築

suteki/2016

端正な表情でかつ、秀作なデザインとは?

2016.11.10

札幌市

現存せず

1961年

久米建築事務所
 越野先生によりますと、札幌の街、特に札幌駅前通りは1961年に大きな転機を迎えたのだそうです。それまでの新築ビルのデザインには、まだ古典的な要素を見ることができ、単体でその価値を楽しむことが出来ていた。ところが、1961年から始まるビルラッシュにおいて状況が急に変わったというのです。

「都会の高層ビルは単に容れものであって無機的な表情でよいとするデザイン無関心派。」
それに対して、
「けんを競うデザインの過剰を売り物にした表情過多派。」

 これら矛盾する新築群とそれ以前の懐かしい木造建築群とが交じり合い、見る者に苛立たしさを感じさせていたとのことなのです。
 そのようなな背景の中に生まれた日本生命ビル(1961年 久米建築事務所)には、際立った美しさがあると先生はふれられました。設計者は、札幌駅前通りの混沌とした状況を十分に意識したうえでこの建物の設計に挑んでいるといいます。
①無機的デザインを肯定的に捉え、その限界の中にデザインの質の高さを追及している。
②例えば、白タイルの固い質感
③窓周りのプロポーションの推敲
④ディテイルの端正さ
⑤深い開口の陰影に現れる、わずかな表情の変化

 そう言われてみれば、私にだって理解できる気になってきました。

 大学の助教授がひとつの現代建築を称えるという行動は、その裏で同時代の建築批評を行っているに違いありません。下記の建築が「デザイン無関心的」「デザイン過剰的」にあてはまるか、あてはまるならそれらのどちらになるかと眺めてみますと、建築を見る力が養われそうです。(笑)

1960年 
 千代田生命ビル(設計 大成建設)
1961年 
 北海道拓殖銀行本店(設計 三菱地所)
 札幌中央郵便局(設計 郵政省)
1962年 
 北海道ビル(設計 三菱地所)
 第百生命ビル(設計 石本建築)
1963年 
 北海道新聞社(設計 三菱地所)
 三井生命ビル(設計 久米建築事務所)
 伊藤ビル(設計 伊藤組)
1964年 
 北海道銀行本店(設計 山下設計 田上建築)

 ニッセイビルが建て替わる前にこの話を聞いていたら、しっかり眺めに行ってみたかったものです。
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