素敵な建築

suteki/2021

酪農学園大学本館のレンガ壁を見て、札幌西高のレンガ壁を顧みる

2021.05.31

江別市文京台緑町

改修あるも現存

1960年

竹中工務店北海道支店 上遠野徹
 酪農学園大学本館の2階と3階に見えるレンガの壁を眺めます。

 レンガの壁は、それぞれ上下の梁の間に収まっています。しかし、その両側は柱に到達していないので、壁は建物を支えていないと語っています。上遠野先生は柱の両脇に細い窓を仕込むことでレンガの重々しさを軽さへ逆転させたのではないかと思われます。もう1点、レンガ壁は梁面から30mmほど飛び出させて仕上げられました。この2年前に完成した旭川市庁舎のレンガ壁は梁や柱と面が揃うように仕上げられ注目されましたが、ここでは飛び出させたことによってレンガ壁の軽さが危うい美を伴った緊張感を演出しているようです。(現在は梁も厚みを増されたようで、以前の緊張感は無くなっています。)このような美への追求姿勢は独特で、耽美派的な匂いを感じるのですが、姿勢正しい上遠野先生の性格とは一致しません。

 平面図によると、この壁は2階は廊下に3階は教室内に面しています。薄い壁に心配が募り、学生が勢い余ってこのレンガ壁にぶつかると人型に穴を開けてしまうのではないかという妄想が浮かびます。もちろん、そんなことはあり得ません。レンガは鉄筋の入ったコンクリートブロックの下地に貼られているに違いないでしょう。さあ、実際に行って確かめてみようではありませんか。
 現場に到着し内部を見てみますと、レンガ壁内側の廊下に面した壁は、外部と同じくレンガ仕上げとなっていることがわかりました。ということは、このレンガ壁は下記の様な構成になっているのだろうと思われました。
 モルタルの厚みを入れて総厚320mmくらいと想像したのですが、サッシの取りついた壁厚を見て体が固まりました。これは想像していたよりかなり薄いぞと。定規を当てて230mmと判明した寸法に、私の想像が音を立てて崩れたのです。
 さすれば、こう考えましょう。コンクリートブロックではなく、レンガを積みながらその隙間30mmのところへコンクリートを流し込んでいったのではないかと。この酪農学園大学本館と同時進行で工事をしていた聖ミカエル教会のレンガ壁と類似の構成です。聖ミカエル教会は、小端空間積みをしながら空間内部に鉄筋を入れてコンクリートを充填していたのです。

 間違いない。その方法をこの壁に応用したと確信したのであります。
 しかし、30mmのコンクリートとは意味があるのでしょうか。レンガを平積みしたのとほとんど変わらないような気もしますし、いくら何でも不安な構造です。内部側レンガを60×60のヨーカンサイズにしてもコンクリート厚が70mmに増えるだけです。このあたり、建築素人の私には是非判定のできない領域です。

 いろいろと資料を見ていると、新建築1961年12月号にヒントがでていました。
「内部仕上げ 壁 ドリゾールブロック化粧積みおよびレンガ化粧積み ~工事資金関係が寄付でまかなわれた関係で予算は切りつめられ、この面からも材料の選択や構造の単純化をはかって、たびたびデテールが変った。」とのことでした。

 ドリゾールブロックとは木材の切片とセメントを混ぜてブロック状に成形したもので、軽量で耐火、保温性があり、当時は安価で高性能な材料として普及し始めたころです。本来であればドリゾールブロックは構造材として表面に仕上げを施すのが普通ですから、教室部分の壁にそのまま見せて仕上げとしていたのは、予算の都合であったと思われます。この予算制限がなければドリールブロックの仕上げにはレンガを積みたかったのではないかと思われ、見せるべき壁面にはやはりレンガが積まれていました。

 とすれば、下記のように考えることができるのではないでしょうか。
 これなら、レンガの目地が5~10mmほど内部と外部でずれていたことも納得がいきます。但し、内部側のレンガが30mmのタイルなのかどうかは、もう一度現地へ行き、金づちで叩いて音の違いを確認するなどしてみなければなりません。しかしこれは私にとって、一線を越える行動となります。



 さて、先ほどのレンガ平積壁のおぼつかなさの話に戻りたいと思います。コンクリートの柱と梁がしっかりしていれば、多少頼りない壁でもまあ良いのかもしれません。しかし今の基準に照らせば、いくら何でもそれはないっしょということになりましょう。ところがやっぱりあったのです。でも昔の話だから、そして今はもうない建物だから、もう良いっしょ。

 竣工年 1962年
 解体年 1995年
 建築名 北海道立札幌西高等学校(2代目校舎)

札幌西高同窓会 誌 輔仁NO.102 より (作図:広川悟史さん)

 断面図を見たとたん、えええっ!?と声が出ます。廊下のレンガ壁は2枚のレンガを積んだだけだったそうです。その途中にプレキャストの窓枠が入っているという、やんちゃな感じ。そして、断熱材がどこにも見当たらないことで納得できたあの底冷え感。

 享年32歳と、あまりに短命でしたが、ともかく無事に役目を果たしたことは何よりでした。
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