素敵な建築

suteki/2024

寺田株式会社とトーア家具株式会社 

2024.01.21

函館市西桔梗町

現存

1974年

小南建築設計事務所

寺田株式会社「ARC74」 北海道建築設計監理協会作品集 1974年より

 ある日のこと私は、札幌の「寺田株式会社」の建築が気になったことをきっかけに、函館支店の姿も見てみようとグーグルマップストリートビューを起動しました。その建物は函館市西桔梗町にある流通センターの中にあり、付近には70年代の建築がたくさん並んでいて見応えのある風景となっていました。中でもこの「寺田株式会社」はとりわけカッコ良く、茶色のタイルが貼り詰められた階段室の塊感と大ガラスのある白くてシンプルな柱梁の構成の対比に見惚れてしまいました。

 設計されたのは小南建築設計事務所です。所長の小南武一さんは1897年に生まれ、工手学校を卒業された後は曾禰中條建築事務所に入所されました。1925年のこと、大火に頭を悩ませていた函館市から建築技術者の派遣要請を受けた事務所は、小南さんに白羽の矢を立てたのだそうです。小南さんは函館市の建設部長を経て助役まで昇りつめたそうですが、1955年にご自分の設計事務所を独立開業されたそうです。※

 この建築は1976年に亡くなられたという小南さん晩年の作品になりまが、実はこの向かいにある「トーア家具株式会社」の社屋も同年の作品となります。

トーア家具株式会社(現 株式会社ナニワ)「ARC74」 北海道建築設計監理協会作品集 1974年より

 1階を展示場、2階を倉庫とした大ガラスを用いたデザインで、寺田株式会社と相対した姿はなかなか壮観です。設計者にとってこのように向かい合った建築を設計できる機会というものはよくあることではなく、簡素を旨とするという条件があったにせよ、高い意欲をもって取り組まれたのではないかと思われました。

 ところで上遠野徹先生は、終戦をもって日本国際航空工業の平塚工場を退職され、故郷の函館市に戻られます。竹中工務店へ再就職されるまでの一時期、函館市役所工務部に臨時職員として勤められていたそうですが、その時の上長が小南武一さんだったそうなのです。ほんのひとときの間柄ですが、小南さんから何か影響を受けられていたかどうか気になるところです。

※北海道新聞 函館版「デスクの道南建築散歩」 2024年1月15日掲載記事より
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