老舗手芸店の社長自邸。
　1998年のこと、出版されたばかりの「札幌の建築探訪」を片手に鴨々川沿いを散策していた時、偶然この住宅と出会い圧倒させられました。八窓庵や豊平館、そして住友北泉荘を眺めた後に現れたこの住宅は本に紹介されていませんでした。もちろん、戦後に建設された住宅でしょうから歴史をまとった格はないのかもしれません。しかし、そのデザインの凝り具合や全体の雰囲気はむしろ私を惹きつけました。広い芝生の海に停泊した豪華大型客船のようにも見えたのです。

　その時は、田上先生の設計によるものだとは知りませんでしたし、また気付くこともできませんでした。しばらくしてこの住宅が田上作品だとわかったときは、新しい住宅が建設中のときでした。