田上義也建築作品抄 '64住宅編 より
田上先生の戦後作品の中、一番活き活きとしているのが1965年ではないかと思えます。どの作品もデザインに躍動感があり、迷いのない自信が感じられます。とても60代の男性の仕事とは思えない漲った若さにあふれています。
それ以前を徐々にさかのぼると、若さとは逆に渋いデザインが多くなります。多田邸の渋さは外壁の濃さや切妻屋根の落ち着き、2階の窓の配置に感じられるようです。それは建主からの要望であったからかもしれませんが、そのような中でも田上先生らしいデザインポイントは健在です。
白い軒天井は田上先生の専売特許ともいえるものですが、濃い外壁と対比が効いています。軒天の最上部につく換気窓には、まだ繊細なデザインではないもののガラリ格子があしらわれています。玄関ポーチに架かるパーゴラや玄関内を明るく照らすクリ抜きブロックの存在にも目が離せません。1階の屋根を伸ばし切ったピロティを車庫としたアイデアはモダンです。
このようによく見ないと少し地味な正面デザインであり、見逃してしまいそうです。しかし、南面の解放感には正面とは全く違う明るさがあるようでした。