田上 義也 作品アーカイブス

tanoue/1963

辻村邸

tanoue/1963年

札幌市中央区南5条西22丁目

現存せず

大和工務店

「田上義也建築作品抄=’64」 住宅サロン社1964年より

 北海道銀行常務取締役 辻村朔郎さんの住宅。
 支店建築の他、多くの支店長住宅や行員アパートも手掛けられた田上先生。原朋教さんの「田上義也の戦後期の建築活動」(末注①)によると、北海道銀行の役員施設と考えられるとあるので、一連の福利厚生物件のようです。

 「北国の住まい 第5集」に「コーニスが印象的なTさんの家」と紹介された辻村邸へ寄せた田上先生のコメントには「2階の隅にボクの書斎をつくり、その隅に窓を大きくあけてくれませんか。そこからモイワ山容がみえるから」と施主の希望があったとあります。

 銀行の福利厚生施設としてこの住宅が建てられたのならば、それは銀行のもの。だから、1番最初に住むとはいえ、住まう人の要望が取り入れられることはないはずです。ひょっとすると、役員のための福利厚生とは、会社経費で個人住宅を建設することなのかもしれません。

「田上義也建築作品抄=’64」 住宅サロン社1964年より

 緩勾配の切妻屋根とコーニスを組み合わせた2層の織りなすデザインがカッコいいです。外観は、ブロック塀の門や鉄平石敷のアプローチ、乱積石の花壇や大谷石貼りの玄関廻り、玄関を明るく照らし出すくり貫きブロックのスクリーンが、ザラザラな手触りを感じさせます。材料の種類が多すぎるように思いますが、屋根とコーニスが生みだす深い陰影とバランスが考えられているのかもしれません。

「田上義也建築作品抄=’64」 住宅サロン社1964年より

 内部空間にダイナミックな部分はありませんが、応接室から居間、和室と連なる部屋の南面が大きな窓で組み立てられています。真夏の直射日光はテラスに立つパーゴラで程よく調整、大きなペチカを間仕切り代わりに活用して家全体を効率よく温めようとしています。いつもの田上先生のプランがこの家にも使われていました。



注①:原朋教さん 札幌大学大学院文化学研究科 2003年修士論文
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