田上 義也 作品アーカイブス

tanoue/1963/shima/tanoue/1964/20201113/tanoue/1964

北海道銀行本店

tanoue/1963/shima/tanoue/1964/20201113/tanoue/1964年

札幌市中央区大通西4丁目1

竹中工務店 北海道支店
 戦後の田上先生の仕事の筆頭にあがる北海道銀行本店。しかし、山下寿郎設計事務所との共同設計ということですから純粋な田上作品ではありません。島本融さんが頭取を退任する直前の大仕事なのに、田上先生だけに引き受けさせなかった理由は何なのでしょうか。構造・設備・セキュリティーの経験不足が心配されたか、またはテナントを埋められる組織力を山下設計に期待したか、何か他に個人的な理由があったのか想像がやみません。
 そのようなこともあり、この北海道銀行本店に田上先生のデザインを見つけにくいのは確かです。1F本店営業部ロビーの空間デザインには何となくそんな感じがするなあと思ったり、外部1階と2階の間に金属の水平部材でアクセントをつけたところには田上先生が手がけられた地方都市支店との共通性を感じたりはできます。しかし、もっとはっきりと感じられるところはないかともやもやしている時に読んだ札幌時空逍遥のブログに突破口がありました。
 私は今まで何度もこのビルに訪問したことがあるのですが、エレベーターを使っていたのでこの階段には気づけませんでした。物事の辺境にこそ見所があると常々言われてこられたブログの主である杉浦さんにとっては、この階段は主階段とはいえビル内の辺境です。この階段にフランクロイドライトを、ひいては田上先生の香りを感じとられた杉浦さんでしたが、一応、断定は避けられました。

 これを読んで私も現場へ急行しました。

 階段室へ入った瞬間に目に飛び込んでくるこの幾何学的立体感、そして、吹き抜けた階段を見下ろすと眩暈を誘われるほどのメリハリの効いた渦模様に吸い込まれそうになりました。
 手摺の黒い手がけ部分と白い壁面のコントラストが効いています。そして飽きることなくいつまでも眺めていられそうです。しかし、ふつうならこれで満足して引き上げてしまうでしょう。

 ブログの主、杉浦さんのすごいところはカメラを上に向けたところなのです。
 この階段裏の立体感。このビルの中で一番細やかな手触りの感じられるところです。私は、これと同じ階段裏のデザインを田上先生が手がけられた他のビルで見たことがあったのです。

1973年竣工の札幌中央信用組合ビル

 この2つのビルの共通性から、私は北海道銀行本店ビルの階段は田上先生のデザインであると断定したいのです。

 ところで私も杉浦さんの指導に従い、更なる辺境へ足を踏み入れたいと思いました。向かった先は地下2階駐車場であります。
 かつて一時期、田上先生の運転手役をされていたTさんからお伺いした昔話の跡を見に行ってみたいと思ったからなのでした。田上先生は北海道銀行本店ビルが竣工すると、ご自身の事務所をビル9階に構えられました。その際に某建設会社さんから三菱の初代デボネアを贈られたそうなのですが、田上先生はそのデラックスぶりが性に合わなかったというのです。そして、ほとんど乗られることのないままこの地下2階駐車場に置き放しにされ、車は埃をかぶっていたそうです。

 その位置がどこだったのかはわかりませんでしたが、その雰囲気は感じることができました。
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