田上 義也 作品アーカイブス

tanoue/1965

美幌ユースホステル

tanoue/1965年

網走郡美幌町元町31

現存(2014年解体予定)

松村組
 宿泊してみようと思いながらもぐずぐずしていたら、先のシーズンで営業を止めてしまっていた美幌ユースホステル。
 失われる前に最後の雄姿を記録すべく、道東への旅を決行しました。旅程の一番の訪問目的だったアイヌのチャシ跡に建てられたというこの建物。ひっそりとした建物を眺めていると、雄姿というよりもむしろ雌姿のように思われてきました。

 1965年は田上先生の創造意欲大爆発の年であります。その集大成がこの美幌ユースホステルと思います。建物の対角方向に流れる深く鋭い大屋根は、本郷新アトリエとの類似が認められます。2階のバルコニーへ導かれるブリッジの端には、螺旋階段を包む筒があります。これは、尾崎邸の階段室を兼ねた煙突とのイメージが重なります。1階テラスの上に掛かるバルコニーを兼ねた庇は、植田邸Aで復活したライトのタリアセンデザイン。これらのエッセンスが入り混じった中に、いつもの陣笠が乗った煙突がそびえ立っています。誰にも咎められる恐れの無い状況で、心ゆくまま写真撮影に没頭しました。
 カクカクして鋭い印象の外観右側にある円柱の筒。何やら体が誘われ引き寄せられていきます。

 緊張し姿勢を正して筒のそばに立ちますと、入口から鉄製螺旋階段が見えました。ブリッジを通じて外へ逃げるための避難用階段と思われます。小さな出入口を正面からは隠しているところや、頭を突っかえそうな階段の低さに、ゆっくり入ってきてと囁かれているような気分になります。若い男なら乱暴に進んで頭をぶつけてしまうでしょう。

 通常、筒は男性を象徴します。しかし、この筒は女を連想させます。

 わざわざ眺めにきた美幌ユースホステルに男か女かを考え込む私でありました。

1965年竣工時「北のまれびと」 現代出版社1977年より

現在 2013年10月

Top