田上 義也 作品アーカイブス

tanoue/1965

北海道農業近代化コンサルタント

tanoue/1965年

深川市音江町広里129番地

現存

中山組
 田上先生の雪国的造形手法は、1965年に最高のピークを迎えたように思います。

 L字プランの平面でL字なりに2方向に分かれる片流れ屋根の外観としています。深い軒は壁面の劣化を防ぎつつ、南西角の玄関庇を兼用しています。鉄筋コンクリートの柱と梁を効果的に見せながら、壁面はセラミックブロックで地面に積もった雪から建物を守っています。

 師匠ライト先生からデザインの影響を受けながら、田上先生らしさが花開き、自信に満ちた飛翔感を感じさせてくれます。屋根が紺色なのでクールに見えますが、竣工時はもちろん赤だったようです。
 八雲町公民館にも採用された幾何学アルミサッシ、片流れ屋根が2方向に分かれるデザインは尾崎邸、建物角を持ち上げて飛翔感を出すのは本郷新アトリエ美幌ユースホステルと共通しています。これらの要素を取り入れながらコンパクトにまとまった北海道農業近代化コンサルタント、これぞ田上先生の傑作の1つに数えたいです。うれしいことは、しっかりメンテナンスをしながら使い続けられているということです。



 建物の保存運動とは、壊される段になって対処し始めるのは手遅れだと思います。所有者さんが悩みつくしてもうこれ以上は維持できないと思い、解体やむなしと判断をしたのです。恋人から「ちょっと話があるんだけど・・・。」という電話を受けた時のあのザワッとした感触。今までたくさんのサインを見逃してきてしまったことに似ているようです。ここで手を打つには、全く手遅れなのです。

 建物を大事に使い続けたいという気持ち。その価値観が地域や次の世代の人たちに自然に受け継がれていくことが私の理想です。  

 保存運動の力は、別れの気配が纏わりつかないように建物の魅力を発信する力に変化をさせるべきと思います。「考え直してくれ。これからは心を入れ替えるから。」というような保存運動は見苦しいものです。
 館内ホールに貼られているPタイルのデザイン貼り。この真新しさに目を疑ってしまいます。建築当時のものだとしたら驚きの維持管理力、貼り替えたのだとしても様々な困難を乗り越えて実現させただろうと思われます。どちらであっても、建物への愛情を強く感じます。
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