田上 義也 作品アーカイブス

tanoue/1967

S邸

tanoue/1967年

札幌市豊平区月寒~

現存かどうか不明 

「北国のすまい7」建設情報社1967年より

 月寒に建てられたという2世帯住宅のS邸。単純な切妻屋根の中央に階段室を突き上げるように配置したとのことです。その階段室には、小さな窓が6つも並べられています。恐らく1番上の窓は、小屋裏を冷やすための冷却窓に違いありません。よく見てみれば軒下に換気口のようなものが確認できるので、いつもとは違うデザインが生まれたようです。

 この時代の住宅に、階段室や玄関ホールへ窓を大きくとって明るく照らし出すという計画が目立って増えてきたようです。居住スペース以外にも光を満たしてあげようという気持ちは、設計者のものだったのか、それとも一般に求められはじめたものだったのでしょうか。ところでこの6つの窓は、引き違い窓に見えます。はめ殺し窓であったら、もっと美しく見えたのではないでしょうか。

居間側から見たペチカ「北国のすまい7」建設情報社1967年より

裏の和室側からのペチカ (少しさみしい)「北国のすまい7」建設情報社1967年より

 若夫婦が居間でくつろぐ時、老夫婦は隣の和室で過ごします。通常、ペチカは台所との間仕切りとして設置されることが多いです。余った熱でお湯をつくることができ、台所の横にあることの方が便利だからです。しかしこのS邸では、居間と和室の間の壁に仕込まれていましたので、冬でもプライバシーを保ちながら両世帯が効率的に暖まることができたようです。

 親子の間に壁を立てつつ、そこにペチカを置くというテクニックでさりげなく「プライバシー」を獲得したSさん。奥さんを気遣ってのことなのでしょうが、そこまでして2世帯で住まなければならないことに心が痛んだのではないでしょうか。互いを干渉せずに2世帯で暮らすという住宅が生まれ始めた時代の苦悩が、ほのかに感じられるような気がします。サザエさんのような婿入り2世帯住宅とは重みが違いそうです。
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