前年の
森邸に引き続き、アーチ窓とスタッコ仕上げの外観が独特な印象です。
このようなスパニッシュスタイルは田上先生らしいデザインではなく、当時、流行の兆しを見せはじめたものであったようです。この頃の文献を読むと、大きな2つの流れを感じることができます。1つは海外旅行に行き始めた人々や雑誌などで海外情報を得た人々が、海外デザインの住宅に憧れて自宅のデザインを要望するようになったこと。もう1つは、自由でしがらみのないモダニズムに飽き足らなくなった人々が、その反動で様式の中に身を置いてみたくなったらしいことです。三島由紀夫さんや澁澤龍彦さんは、そのような思いを述べつつスパニッシュスタイルやコロニアルスタイルの住宅に住みました。
この谷口邸もそのような時代の香りを敏感に反映させた住宅なのかも知れません。