田上 義也 作品アーカイブス

tanoue/1971

室蘭ユースホステル

tanoue/1971年

室蘭市みゆき町3丁目12-2

現存

五洋建設㈱
 やっと訪問できた室蘭ユースホステル。
 施工は、1969年に札幌支店を開設した五洋建設です。この時期は、札幌冬季オリンピックのための建設ラッシュで、各ゼネコンをはじめ道内主要建設業者は多忙を極めていました。田上先生は、自分の設計した建物にお決まりの業者をセットするという事はなく、柔軟に様々な施工業者へ建築工事を任せたようです。そんな折り、オリンピック関連施設の受注ができなかった五洋建設が施工を請け負ったようでした。

 この室蘭ユースホステルは、船の形をまとった外観として有名です。これ以外にも、標津町ユースホステル(現存せず)や摩周湖ユースホステル(現存)も船の外観です。港湾都市のユースですから船の形になったという事も理由のひとつなのでしょうが、夢を携え旅する若者のための宿に航海のイメージを重ねるのはロマンチックなことでしょう。日本ユースホステル協会2代目会長の中山正男さんは、1966年に「青年の船」構想を佐藤栄作首相に進言して実現させましたが、中山さんから田上先生へ「船の形」のリクエストがあったのかもしれないと思いました。また、当時のヒッピームーブメントやコミューン思想にも「船に乗った共同体」の発想が登場しますが、田上先生も自身の若かりし長髪時代の放浪癖を思い出し、賛同されていたのではないでしょうか。

朝日の中のフロントカウンター

Pタイルに畳敷きの部屋 2号室潮騒

 素泊まり3,500円の宿泊体験をしてみました。案内された部屋は、Pタイル貼りの床に奥側8畳分だけ畳が敷いてありました。手前半分はPタイルそのままで2段ベッドが2台置いてあります。どこで寝ようかしばらく考え、布団を畳の上に敷くことにしました。

 お笑いのテレビ番組を消すと、イタンキ浜の方からかすかな波の音が聞こえてきました。カーテンを捲って窓の向こうの暗闇に目を凝らしてみると、夕方にチェックインした時の情景が思い浮かんできました。ホールですれ違ったどの学生たちからも元気よく「こんにちは!」という挨拶がかかり、ひるんでしまったのです。今夜のユースは高校生の合宿場だったようですが、礼儀正しい学生たちよ、もう寝てしまったのですな。4人部屋に1人で居る所在の不確かさを味わいながら、私も床につきました。

 翌朝、藤当ペアレントに許可をもらってエントランスの吹抜けや船首の形になった非常階段室をゆっくりと撮影させていただきました。

吹抜けを見上げる

吹抜け2階からイタンキ浜方面が見える

船首の非常階段

 こうしてみると、個室よりも共用スペースの方が格段に素敵な空間です。その昔、若者たちの熱い会話や全国各地からのトラベラーたちの出会いが、この吹抜けのあるホールで繰り広げられたのでしょう。話しつかれた若人たちが寝るためだけの部屋に、余計な設備の必要ないのはもっともです。

 ①このような使い方を守りながら建物を維持させること
 ②ロケーションを活かしてレストランに改修すること
 ③設備を新しくして一般受けした宿泊施設に生まれ変わらせ、商売を成り立たせていくこと

 仮に潤沢な予算があったとしても①を選んでしまう私は、これからも決して時代に乗ることはできないでしょう。

2016.10.10

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