珍建築

chinnazo/2023

右左府発電所

2023.06.17

沙流郡日高町字日高184番地の2

現存

1961年

北海道電力

竣工時1961年北方建築VOL.5 No.41より

 「北方建築」という北海道独自のそして当時北海道唯一の建築雑誌は、1958(S33)年6月の創刊から毎月発刊され4年後の1962(S37)年7月に廃刊となりました。先日、その最終刊の北海道電力特集号を読んでいましたら、この右左府発電所の写真に目が釘付けとなりました。発電所建屋の前に小さなアーチを見つけてしまったからなのです。

 アーチの構築物を見ますと、丹下健三さんの広島ピースセンターの慰霊碑が頭に浮かんできます。カクカクした発電所建屋と対比されアーチの曲線美が引き立たされていますが、この発電所を設計された方はどのような意図でこの構築物を置いたのでしょうか。

 これは一度現物確認に行かねばならぬと、車を駆ったのであります。

現在2023年

 現地に到着しますと竣工時そのままの姿を眺めることができ、かわいらしい造形美のアーチも残っていることを確認できました。敷地に立ちますとどこからか激しい水の音が聞こえるのですが、その源はこのアーチのガラリから発せられているようでした。この発電所は水の落差を利用した水力発電を行っているとのことですので、このアーチの下が導水管を通り落ちた水の溜まり場になっているらしく、圧を抜く排気が目的の構築物なのだと思われました。
 排気のための構築物にアーチ形状のデザインを採用するとは、なかなかの設計者だなあ。ひょっとすると北海道電力 土木建築課を退職され独立されたばかりの栄米治さんがデザインのアドバイスをされたのではないだろうかなどと思いつつ、アーチの周りをぐるっと後ろに回りました。そうしましたところ、基礎の石に刻まれた「殉職者」という文字が目に入り、体が固まったのでした。
 アーチは、この水力発電所を建設するときに亡くなられた方々への弔いを表する記念構築物だったのです。電気だけにとどまらず、多くのインフラ整備工事は尊い命の犠牲の元に行われたと教えられたことを思い出しました。便利な現代に暮らして忘れていましたが、ここに感謝の念を込めて載せさせていただきます。
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