建築年表 住宅編

chrono/1957

1957年試作寒地住宅

chrono/1957年

札幌市北区北24条西

23棟のうち4棟現存

日本建築学会北海道支部及び日本建築士会北海道支部 寒地住宅小委員会

配置図 1957 試作寒地住宅図集より

 最近入手した1957 試作寒地住宅図集の配置図を見て、目を見開きました。
 その理由は、以前より気になっていた可愛らしいレンガ造住宅たちのことと、いつも拝見している「札幌時空逍遥」の2020年4月12日のブログとが結びついて、一気にその謎を解決できそうだと思ったからなのです。

 さてこの配置図の通り、1957(S32)年に試作寒地住宅なるものが23棟建設されました。これらはその年8月に開催された日本建築学会と日本建築士会共催の北海道大会に合わせて披露されるためのものでした。北海道大学施設課の斡旋のもと建設資金を公社建売住宅に求めたことから、最大面積30坪以下、最高単価坪当り5万3千円以下というローコストな条件だったそうです。日本建築学会北海道支部長だった落藤藤吉さんは、当時の融資基準に照らした防火条件のもと、コンクリートブロック構造・ドリゾール構造・レンガ構造・鉄筋コンクリート構造・サーモコンクリート構造に工夫を凝らし、設計を監修されました。



 早速、本を片手に現地へ行きましたところ、なんと4棟の現存を確認することができたのであります。

8号棟住宅

8号棟住宅 1957 試作寒地住宅図集より

 これが以前より気になっていた13,6坪の可愛いレンガの家です。空き家の様子でしたが、広い敷地にチョコンと建っている姿にむしろ贅沢を感じたものです。

9号棟住宅

9号棟住宅 1957 試作寒地住宅図集より

 8号棟住宅の向かいに建っていて、パースは北面、画像は南面となります。とても細い道路沿いにレンガ造の住宅2軒が建っているのを不思議に思っていました。


19号棟住宅

19号棟住宅 1957 試作寒地住宅図集より

 ツタをくぐって玄関にアプローチするとは、お色気満点です。1階がL字型に、そして2階も一部増築されたようで、大事に住み続けられています。コンクリートパネルで組み立てられた工業住宅にもかかわらず、木造住宅のような温もりが感じられます。


22号棟住宅

22号棟住宅 1957 試作寒地住宅図集より

 外部に表れた鉄筋コンクリートの柱と梁が重厚な様子ですが、素敵な庭とともに硬さを感じさせません。内部は天壁床ともドリゾール板やドリゾールブロックで断熱され、当時先端の温熱環境が整っているようです。パースによると竣工時の庭には湧き水の泉のようなものが描かれているので、リビングから水景を眺められたかもしれません。この住宅が基準値ギリギリの29,9坪という大きさでした。



 2021年現在、2軒のレンガ造と2軒の鉄筋コンクリート造の住宅が生き残っていたことがわかりました。これ以外にコンクリートブロック造やドリゾールブロック造、そしてサーモコンクリート造がありました。サーモコンクリートとは細かな気泡の入った特殊なコンクリートでそれ自身が断熱材兼構造材という一石二鳥な材料であったそうです。あとになって強度や透湿性の問題が判明したらしいのですが、採用時には夢のような新建材と謳われ、北海道で初採用の案件として大変な期待がかけられていたそうです。
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