失われた建築

lost/2016

可否茶館円山店

2016年
解体

2016.02.17

札幌市中央区南5条西27丁目1

2016年 解体

1986年

倉本龍彦
 「ねえ覚えてる?あの時言ってた天窓のある喫茶店の話。」

 「北の国から'89 帰郷」で、上記セリフの舞台となった可否茶館 円山店が取り壊されました。この建物は山晃ハイツ円山というマンションのはなれに、1986年のこと倉本龍彦さんにより設計されたものでした。

 マンション解体時、なぜかこの部分だけ解体着手されませんでした。ひょっとするとこの部分だけ残されるのか?いや、ドラマのファンのためにしばらく解体猶予しているのか?こんな風に思ってみたのですが、しばらくするとやはり解体工事が始まったのでした。


 「純とレイちゃんが過ごした2階の窓辺の席からは、実は円山墓地しか見えないんだよ。」
 テレビドラマを見て、彼女と実際に行ってみたという友人は、そう言って笑いました。
 「ふうん。」と気のない返事をした私は、一緒に行く彼女がいなかったという事を差し引いても、関心を持てませんでした。正しく言うと「関心を持っては負けになる。」と、ブームをあおる情報に気安く迎合することに抵抗したのです。いや、やはり、墓地を見ながらでも楽しい時間を過ごした友を羨んだかもしれません。

 何だかんだ良い思い出の無い建物であっても、取り壊されるのであれば記録をしなければなりません。ついに1度も入ることのなかったお店の天窓に雪が積もっているのが見えました。営業中であれば、窓の放熱であの雪は融けるでしょう。しかし、サッシの能力を超えた雪融け水が店舗内にじんわり漏れ入ったと伝えられています。

 天窓をやってみたいという施主と設計者は、もしかしたら雨漏りするかもしれないという危険を承知しながらも突き進んだ時代だったでしょう。
 「心配ばかりしていたら、素敵な夢ある空間はつくることはできないよ。雨漏りは、発生してからその対処法を考えればいいじゃないか。」

 あの時代、少数派ではありますが、このような考えがある程度の力を持っていたと思います。無謀な直球は良くありませんが、このような気概を忘れたくないものです。
Top