2階にある2本の柱型にとりつかれた私は、その原因が田上先生による
小熊邸の柱型と似ていることにあると考えました。しかし、この住宅はそれほど古いものではないでしょうから、きっとどなたかが小熊邸からインスピレーションをもらって設計した住宅なのだろうと考えました。けれども、これはやっぱり田上先生のデザインなのではないかという疑いが私の中で発酵し、そのガスはパンパンに膨らんで私の穴という穴から漏れ出し始めたのです。
この住宅が田上作品だという確認の方法もなく、また専門家に尋ねる伝手もない私は、そのストレスで腐り始めてきたような気になっていました。そんな折り、古い住宅雑誌「北国のすまい 第7集」を読んでいましたら、偶然にもこの住宅が田上先生の作品だったという事実に接することができたのです。
その時の感覚をどのように表現したら良いでしょうか。ゼンマイ仕掛けの身体に引っかかったゴミを取り出した途端、再び音を立てて動き出したような、定年間近の刑事が長年追い続けた犯人を逮捕した時のような、はたまた、探しつくしたオモチャがじゅうたんの下から現れた時のような…いや、とても言い当てることはできません。とにかく私は、その時に味わった心臓が止まるほどの満足感を田上先生の作品を探しあてることでもう1度感じたいと、街をさまよい歩き出すことになったのであります。
私にそのようなきっかけを与えてくれた
関口邸。もうそろそろですねと感じてはいましたが、年末も押し迫ったところで予期せぬお別れとなったのでありました。