東洋レーヨン基礎研究所坂倉建築研究所様ウェブサイトより
ところで、開業時の三愛ドリームセンター内には東洋レーヨンのテナントがあったそうですが、同年に東洋レーヨンは鎌倉に建てた
基礎研究所を坂倉準三さんに設計依頼していました。市村社長はこれを見たことでしょう。そして、研究所の青いタイル貼りに魅了されたに違いなく、派手な外観でなくとも落ちついた建築美があると理解されたのではないかと思います。恐らくこうして、ホテル三愛の設計を日建設計にではなく、坂倉準三建築研究所に依頼されたと思えてくるのです。坂倉研究所がそれまでホテル設計の実績がほとんど無かったにも関わらずです。そして坂倉さんにこうリクエストされたのではないでしょうか?
「先生、ホテル三愛もあぎゃん青かタイルで仕上げたいばい。」と。
ホテル三愛におけるデザインの魅力とは
ホテル三愛は、1964年10月開催の東京オリンピックに伴う国際観光ブームを想定して、その開催前の開業を目指したので、1962年夏に坂倉研究所と設計契約を交わした後すぐの着工を準備しました。このように十分な時間が無かったので、坂倉研究所は外観とパブリックスペースのみを担当し、大成建設設計部は客室と宴会場の方を担当して設計作業を行ったと伝えられています。
さて、坂倉研究所ではスタッフの北村脩一さんをチーフとしたグループが設計をはじめました。実はこれに先立ち、北村さんは坂倉準三さんと共にデンマーク コペンハーゲンに完成したアルネヤコブセン設計によるSASロイヤルホテルを視察に行っていたそうです。今でいうところのデザイナーズホテルの先駆けとなった建物で、このホテルの雰囲気が竣工時のホテル三愛からも感じられるのは、視察の賜物なのでしょう。それでは、ホテル三愛におけるデザインの魅力どころを下記の通り見ていきたいと思います。
「めがね椅子」
ホテル三愛のためにデザインされたという
めがね椅子は、4脚1組で配置されました。ヤコブセンがエッグチェアやスワンチェアを同様に配置したSASロイヤルホテルのロビーとそっくりです。黒や緑または赤など強い色の張地を採用したのは坂倉さんの師 コルビジェ譲りともいえそうです。当時、坂倉さんの建築には長大作さんが家具デザインをされていましたが、今回は坂本和正さんによる硬質発泡樹脂素材を駆使したデザインが採用されました。ホテル三愛のロビーを印象づけたインテリアになりました。